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The world of silence

私は麻雀と関わって10年程になる。
今まで何人の打ち手と戦ったか、もうわからないが
万は下らないのは確実だ。








10代の頃は、胡散臭い場で打っていた。
ひとクセもふたクセもあるタチの悪い連中と肩をつき合わせながら
いつも精神を張り詰めて、全身全霊で牌と向き合っていた。

就職してからは主にフリーで打つようになった。
チェーン店からセット専門の個室まで、色々な店に行った。
面子の種類も千差万別。常に新鮮な気分で牌を打った。

天鳳をはじめてからは、相手の顔もわからないままの麻雀だ。
ネカフェに篭って、今も上を目指している。
side、('(ェ)'o) 、〓松井CS〓 、、、
レベルの違う強者を知る度に、奮い立った。


その中には「一生敵わない」と思うような打ち手も何人かいる。

異常な精度の読みで手牌をガラス張りにしたり
機械の様な一定さとタフさを持っていたり
目に見えない物を察知する能力に長けていたり・・・

その性質は様々だが、皆一様に私がどんなに努力しても獲得できない類の能力を持っていた。
そう、「類」だ。
程度やレベルでは無く、性質の違いを強く感じる人が多かった。
私の上達の到達点と彼らのそれは、明確に異なっているような気がするのだ。

そういう打ち手には「追いつこう」という気にならない。
「俺とは違う生き物なんだな」
そんな納得がスッと胸に落ちる。ただそれだけだ。

もちろん
単に私の勝手な思い込みである可能性は大いにある。
例えば天鳳で打たせれば、(言い方は悪いが)化けの皮が剥がれるのかもしれない。
だが、そんな事は関係無いのだ。

「対峙した時に『勝てない』と思う」

その事実の前で、理屈や検証は無意味だ。

単位ゲームの勝敗が実力に拠り難い麻雀という種目において、自分自身の認識より確かなものを求めても、得られないだろう。
10万ゲームの成績、美しく構築された戦術理論、得た金銭や称号・・・
それを以って何かを評価しても、最終的な結論は個人の判断に依存せざるを得ない。

だからこそ、その過程を跳躍して自分の頭脳や精神に突き刺さる「勝てない」という楔は
何より強固に自分を・・・ いや、私を縛ってしまう。


当然ながら、そう感じるような手合いは少ない。
大抵は長年の実戦に身を置いてきた老兵で、麻雀にズブズブに浸かってきたような連中だった。

しかし、一人だけ同年代の打ち手がいた。
それどろか、彼は私よりも3つも年下だった。

今回はその打ち手の話をしよう。



紹介された時、「コイツ絶対ワケありだ」と思った。

小柄かつ華奢な体に、タイトで上品なパンツを履き、ベロアのジャケットを羽織っていた。
ファッションは大人向けなのに、どう考えても中学生にしか見えない面立ち。
少し茶色掛かった細い直毛が童顔を助長している。
一目でいかがわしいと分かる場と面子を前にしても、穏やかな微笑みを崩さない。
面立ちはとても整っているが、「ハンサム」というのとは違う。
むしろ「可愛い系」だが、それが彼の年齢によるものなのかはわからない。
中性的と言うより、はっきりと「女の子みたいな顔」だった。まつげが長くて色が白い。

彼がこの場で打つという。
色んな意味で酷いここの面子と一緒に。

(あぁ、誰か偉い人の息子とかだな。ちょっと遊びに来たとかそんな感じかな?)

私がこういう印象を持ったのも無理は無いと思う。
だが、それは違った。
彼はピンの打ち手としてここに来たし、何よりもその麻雀は私の理解を超えていた。

私の対面に座った彼は、ノー和了で3ラスを引いた。
リーチも仕掛けも殆ど無かった。
見た目に反した鋭い牌捌きで、作業のように淡々と放銃していた。
その間もずっと表情にまったく変化が無かったのが、なんだか不気味だった。

4ゲーム目で3着を引いて、彼は席を立った。
(もうこれで会う事も無いだろうな・・・)
そう思ったし、脇の連中はカモが消えた事に残念そうな態度を隠さなかった。
次の打ち手が座り、彼の事などすっかり忘れて配牌を取った。

数日後

彼がまたやって来た。
前回と同じような格好で、同じように私の対面に座った。
(なんだ?遊びが癖になっちゃったか?大怪我するだけだと思うけどなぁ・・・)
侮る気持ちが無かったと言えば嘘になる。
前回も彼と一緒に打っていた下家などは、露骨に嬉しそうな顔をしていた。

だが、すぐにその顔は凍りつき
私も弛緩した心に鞭打つ事になった。

とにかくずっと彼が和了し続けているのだ。
早和了には全然スピードが追いつかないし
彼がじっくり手を作っている時に限って周りも遅くて
結局大物手を和了し切られたりした。

8ゲーム打って、彼のトップ7回に2着が1回。
とんでもない圧勝である。
またしても彼から席を立って、その卓は割れた。

「バカヅキに当たっちまった・・・」

下家がそう呟いた。
私も同感だった。
麻雀だからこういう事もある、と。

それは間違いだった。

2、3日置きにやってくる彼を、誰も止められなかった。
常に連帯に絡んでくるので、脇は堪ったもんでは無い。

なんていうか
手が入っているとか、放銃しないだとか
そういう問題じゃ無かった。
展開が彼の味方をしているとしか思えない状況が続くのだ。

例えば、彼が東パツに親満に放銃する。
そうなると、脇の二人は彼のケアをしながらトップを目指すんだけど
何故か同士討ちになってしまい、全員が平たい状況のまま彼からリーチが入る。
満貫以上に打ったらラスだ。基本的に引き気味になる。
一人旅を許した挙句、山に深くて薄い和了牌を引かせてしまい、4000・8000でトップを獲られる。

そんなんばっかりだった。

それらを私は「展開」「偶然」と片付けていた。
時々100ゲーム・200ゲームの単位で続くバカヅキがあるのは知っていたし
自分がその恩恵に与った経験もある。

(しょせん麻雀だ。こんな事もあるさ)

そう、それが普通だ。
別に気にする事じゃ無い。
普通なら。


ところが、その所感が決定的に揺らぐ出来事が起こる。



彼がダントツトップのオーラスで、やはりラス親は彼。
上家のラス目からリーチが入って皆がオリている。いや、少なくともそう見える。
そんな折の終盤、残りツモ2回の時に彼が少し考えて無筋の五索赤を打つ。
聴牌でも入ったのだろうか?まぁ、跳満までならトップのままだが・・・

果たして、ラス目が声を掛けた。
こんな手が開かれる。

一萬一萬一萬二萬二萬二萬五索五索東東東中中

裏が乗らず、12000。
ラス目と彼は40000点強差だったので、トップは彼のままラス目は2着だ。

そのゲームで彼が席を立ったので、戯れに山を開いていた上家が声を上げた。
そのツモ筋に、中が2枚生きていた。
ツモれば当然トップだったし、祝儀も引かれる。
私は結果的に彼の放銃に救われた形になった。

「なんだよー タコのせいで役満逃しちまったよ・・・」

ゴチているそいつを尻目に、私は彼の手を開いてみた。
どんな所から打ったかが気になったから。
ギャグ漫画とかで、「驚き」の表現に目玉を飛び出させたりするけど
その時の私の眼球はきっとそれに近い状態だっただろう。

三萬四萬五萬二筒二筒二筒三索三索四索五索六索七索北

一応打牌前の形を書くと

三萬四萬五萬二筒二筒二筒三索三索四索五索赤五索六索七索北
ここから五索赤を打った事になる。
ちなみに、北は現物だ。

何から突っ込めば良いかわからない。

まず、北は現物だ。
右端から牌を動かしていなかったから、テンパっていたところに北をツモったのだろう。
なぜ崩す?
トップ目とは言え・・・ いや、だからこそ現物打って聴牌取れよ!

また、なぜ五索赤を打った?
仮に手牌とツモ山が全て透けて見えたとして
四暗刻でのマクリの可能性を察知したとしよう。
「差し込む必要がある」と分かったとしても、黒でいいじゃないか。
祝儀も付いてるし、裏2で倍満になってしまう。(それでも順位は変わらないが・・・)

いや、一応納得のいく仮説は立てられる。
それは

「黒だと見逃される可能性があったから、跳満で2着確定にする為に、赤から打った」

確かにラス目は満貫では3着までだ。
ウマが高いルールだから、ツモ専でトップと祝儀を狙う選択だってあるかもしれない。

・・・いやいやいや
そんな事あるはずが無い。
だとすれば、彼はラス目の手牌を「寸分違わず」読んだ上で
山に和了牌があってツモられる事まで知っていた事になる。

そんなのはもう麻雀じゃ無い。何か別のものだ。

(バカバカしい・・・ たまたまそう見えるだけだ)
(信じられない偶然なんか何度も見てきただろう?これだってそうさ)

必死に自分へ言い聞かせる。
それが戦慄を隠す為の防衛本能による所業だと、当時の私は気付かない。


伏せられた牌を不用意に覗いてはいけない。
知る機会が無い情報には大抵、知らない方が良い現実が隠されている。


私は彼に一目を置いた

・・・と言えば、少しは格好が付くだろうか?
そんなんじゃない、はっきりと畏れていた。
できればもう一緒に打ちたく無かった。

だが、田舎の中でも取り分け閉鎖的なこの環境では、相手が選べない。
それからもコンスタンスに彼と打ち合った。

そうやって何度も一緒に打って
ある事に気が付いた。

大抵は上位層に君臨していた彼が、いきなり大崩れする日があるのだ。
生半可な負け方では無い。4ラスや5ラスを引いた上に、ほとんど和了できないようなボロ負けだ。
ちょうど、初めて彼と打った時のように。

(なんだ?好不調が激しいのか?それともわざと負けてるとか?)

あまりのギャップに薄気味悪くなりながらも
余裕の無かった私は、不調の時の彼に当たる事を切に願うだけだった。

どんなに勝とうが負けようが
あの微笑を崩さない彼は、どこか超然とした雰囲気を身に纏っていた。


そんなある日

いつも打っている場に行く途中に、彼と行き会った。
ああいう場所での知り合いとは外ではあまり関わりたく無いのだが
目が合って会釈されてしまうと無視するわけにもいかず、私もそれを返した。

何となく一緒に歩きながらどうでも良い世間話をしていると
急に丁寧な言葉遣いで、麻雀の話を振られた。

「この前の白は狙って打ったんでしょうか?」

一瞬何の事だかわからなかったが、少し考えて思い当たった。
それは先日彼と打った麻雀の中でのワンシーンだ。

オーラス
私がトップで、ラス目が国士をやっている。
3着目が激しく突っ張ってきていて、2着目でラス親の彼は何をやっているのかよく分からない。

ラス目の手牌から幺九牌が出てきていたので場は俄かに沸騰していたが
私はあまり気にしていなかった。
場に一枚見えの九萬が暗刻だったので、これを切らない限り国士は成就しない。
むしろ、かなりの差がある3着目に和了って貰いたいような局面だった。
3着目は下家で、上家が彼、対面がラスという席順だった。

終盤になって、下家がツモった牌を手に入れる時に、それが見えてしまった。
場に1枚切れの白だった。私の手にも対子になっている。
下家は一瞬動作を止めて、手の中から別の牌を打ってきた。
回ったのかもしれない。

次巡
私は一瞬だけ間を入れて、対子の白を打った。
いかにも「勝負決めに行っています」と見えるように。
下家が喜々として白を合わせ打つ。

当然、次巡に白は打たない。
国士にはまだ行って欲しいのだ。
3着目の和了も大歓迎なので、その後も半分差込み気味の牌を下ろしたりしたが
結局流局し、彼のノーテン宣言でゲームは終わった。

彼が言っているのはおそらくこの事だろう。

普通、打ち合う相手にこんな事を話すのは御法度だ。
こういった面子が固定された場では尚更だ。
だが、私は全てを素直に話してしまっていた。

なぜかはわからない。
丁寧な口調や、彼の容姿が持つ雰囲気に流されたのかもしれないし
麻雀の話し相手に飢えていたのかもしれない。

真剣な様子で聞き終えた彼は、これまたバカ丁寧に礼を言ってきた。
以前目にした神懸かった麻雀と、その所作のギャップに、少しドギマギした。
決して「アッー!」とかじゃないので、腐女子達は自重するように。(女性のマイミクいないけど)


それ以来、顔を合わせると話をするようになり
段々と親しくなっていった。

私は彼を「せいくん」と呼ぶようになった。
名前に「静」という時が入っているので、その音読みだ。

付き合ってみると、せいくんは本当にヘンな奴だった。

どんな時でも誰が相手でも決して敬語を崩さないのだが
相手を敬っている感じはまったくしない。「舐めてる」のとも違う。
それ以外の話し方を知らないかの様に、常にかしこまった言葉を選んでいた。
「○○ですよー」と間延びするのが特徴だ。
打牌動作とは対照的に、ゆっくりゆったりと声を出す。

それに加え、いつも微笑んでいる。
怒ったり大笑いしたのを見た事が無い。
「穏やか」と言えばそうなんだけど、何か少し違う。

何と言えばいいのだろう?
「ニコニコ笑ったまま殺人とかしそう」というかなんというか・・・

一度、麻雀中にせいくんが他家に因縁を付けられた事があった。
確か、彼の表情に対してだったと思う。
「ニヤけてるんじゃねぇ」とかそんな感じだ。
立ち上がって凄んでいるソイツに向かって、せいくんはまったくいつもの調子で

「座らないと、腕を折りますよー?早く続きしましょうよー」

と言い放った。
繰り返すが、穏やかに微笑んだままで。

こんな事を言ったら「上等じゃねぇか!」とかいう買い言葉で、さらに盛り上がっちゃうのが普通だろう。
だがその時はなぜか、それで収まってしまった。
せいくんの言葉に本気を感じたのか?
あまりの平静さに毒気を抜かれたのか?
それはわからない。

ただ、その時の私は、心底せいくんが恐いと思っていた。
透明ゆえの酷薄さみたいな物を感じたからだ。

(たぶん、今まで色々あったんだろうなぁ・・・)

せいくんの生い立ちに少し興味が沸いたが、それを口にした事は無かった。
不用意な詮索はロクな結果を生み出さないのは、それまでに思い知っていたから。


私の打っていた場では、原則的に後ろ見は許されない。
一応その打ち手が承諾すれば可能だったが、皆は手筋を見られるのを恐れていたから、申し出る人さえいなかった。

だが、せいくんと私はお互いを観戦する協定を結んでいたので
よくそれぞれの麻雀を見ていた。
そのせいで私達が同時に卓に入る事が警戒されてしまったので、せいくんとあまり同卓する事は無くなったが
それは私にとって僥倖だった。
明らかに彼と一緒に打つのは割に合わないからだ。(せいくんは打ちたがったが)

予想通り、せいくんの麻雀は理解不能だった。

押し引きが特殊とか、手順がヘンとか
そういうレベルじゃない。

明らかなチャンス手なのに、序盤から手を崩していったり
どう考えても和了できなそうな手から、和了に向かわない牌でリーチに突っ張ったり。
かと思えば、突然普通の手筋でスルッと和了ったり・・・

全然一貫性が感じられないのだ。と、言うより、人の意思が無いように見える。
私とまったく違う基準で打っているとしか思えない。
そのくせ勝ち頭なのだから、もうまったく訳がわからない。

こんなことがあった。

せいくんの後ろで見ていて、彼がこんな手牌になる。

四筒六筒六筒七筒八筒八筒二索三索四索五索六索北北  ツモ七索
四筒八筒打ちで聴牌だ。
モロ引っ掛けの四筒か、赤受け+枚数で八筒か・・・
そういう風に考えるのが普通だ。

少し考えて、せいくんが打ったのはなんと五索
四筒六筒六筒七筒八筒八筒二索三索四索六索七索北北

見ての通りの聴牌崩しだ。
別に他家の聴牌気配は無いし、筒子が危険というわけでも無い。
そもそも、オリるような局面ですら無い。
私は無表情を保つ事に、かなりの労力を使う必要があった。

2巡程その形のままツモ切っていると、他家がリーチに来た。
せいくんは三筒をツモってこの形

四筒六筒六筒七筒八筒八筒二索三索四索六索七索北北  ツモ三筒
ここではノータイムで無筋の八筒を切る。
それが通って次巡のツモは・・・

三筒四筒六筒六筒七筒八筒二索三索四索六索七索北北  ツモ五索

さっき切った五索だった。
六筒でリーチ。これもノータイムだ。

全然意味がわからないまま、流局した。
嫌な予感がしつつ先行リーチの手牌を見ると・・・

四萬五萬六萬五筒六筒七筒七筒七筒五索六索六索七索七索

案の上こんな形だった。
カン七筒は純カラで、五索は当たり牌。
最初の聴牌で筒子受けでリーチを打っていたら、五索で高目にストライクだった。

日に一回はこういう事がある。

頭を抱えたかった。
それまで自分が培ってきた麻雀の素地みたいなものが、丸ごと破壊されそうだった。
せいくんの麻雀を見てから、成績が悪化していった。
自分自身が信じられないまま、勝てるはずが無い。


それに、せいくんの字じゃないけど、彼が纏うあの静けさは何だ?
明らかに卓の中心にいるのに、まったく気配が無いのだ。
どんな志向で打ち進めているのか、そもそも勝とうとしているのかすらわからない。
彼だけがまったく違った場所から卓を見下ろしている様ですらある。

そこはきっと完璧な静寂の世界。
凪ですらなく、音を出す物が何も無い世界。
そこでは透明なものしか存在できず
微笑み以外の表情を作るとすぐに堕ちてしまう。
そんな非情な世界。


こんな狂った妄想すら浮かんでくる始末だった。
たかが麻雀を見ただけでここまでおかしくなれる私も、ある意味凄い。


それは、あるきっかけで解消する。

収支がガタガタで、潰れそうになっていた頃
せいくんと一緒に食事に行った。
年齢には分相応の中華料理店で、これまた生意気にも個室を取って
海老焼売やらを一緒につついていた。

話は自然に麻雀の事になる。
麻雀の話自体はそれまで何度もしていたが
私からせいくんに考え方とかを聞いた事は無かった。
絶対混乱するだけだと思ったからだ。

だが、それも限界だった。
このままでは早晩私は潰れる。
それならば、最後に彼の麻雀の謎を知りたかった。
もう、麻雀を打ち続ける事を半分諦めていたのだ。

「せいくんってさ、何を考えて麻雀打ってるの?」

そんな捨て鉢な気持ちから出た言葉だったからか
まったく主体性に欠ける質問になってしまった。
自分がこんな事を聞かれたら困る。

「えー?フツーですよー。『どうやって和了ろうか?』とか『どれが当たり牌か?』とかそんな感じです」

そんな私の事情にはまったく頓着せずに、せいくんは即答した。
別に惚けている風でもない。
「本当のことを言っているだけ」という自然体に怯みそうになるが
最後かもしれないという想いに後押しされ、さらに言葉を続けた。

「でもさぁ、俺とせいくんじゃ全然違う打ち方じゃん。見ててそう思わない?」
「そうですねー。巷くんと僕は違いますねー」
「でしょ?俺だって和了したいし放銃したく無いから色々考えるけど、何でこんなに違うのかぁ」
「あぁ、それは僕がテキトーだからですよ」

テキトー?
「適当」という漢字と結びつくまでに、一瞬かかった。
いや、あれはそういうもんじゃ無いだろ。
私が適当に打っても絶対ああはならない。
せいくんが続ける

「僕、すごいカン麻雀なんですよー。読みとかよくわからないし。その時の雰囲気で『アガれそうだなぁ』とか『これ当たりそうだなぁ』とか思った通りに打つんです」
「そ、そうなの?『どこにどの牌があるか?』とかも考えないの?」
「そういうの本当にわからないんです。だったら、自分で思うがままに打った方がいいかな、って。そっちの方が勝るんですよねー」

しばらく、何も言えなかった。
「違う」とは思ってたけど、ここまでとは・・・
おそらく、私が頭に入れている牌理とかすらあまり知らないのだろう。
思い当たる節はある。それで説明できる局面は多々有った。
だが、それで勝てるのはなぜなんだろう?

「僕にもよくわからないんです。だから勘麻雀なんですー」

それで話は終わったと言わんばかりに、せいくんは料理に箸を付けはじめた。

それを聞いて

「ダメだ、やっぱり全然わからない」
「やっぱせいくんは違う次元で打ってる」

という諦めの気持ちと共に

「俺には絶対到達できない境地だ」
「せいくんが打ってるのは、俺が知っている麻雀とは違うゲームだ」

という納得感が沸いてきて
それまでの鬱屈が晴れていくのが分かった。

(これは俺には無理だ。だったら気にしないで自分の道を極めよう)

そんな後ろ向きなのか前向きなのかわからない領解を糧にして
私は迷いから抜け出した。

「じゃあ、時々すげー負けるのってアレは何?」

もう一つだけ聞きたかった質問を、気負い無しで言ってみた。
別に答えが無くても良かった。

「どうして良いかわからない時は負けますー。日が悪かったと思って諦めますー」

あぁ
この人は超能力者みたいなものなんだ。
だったら仕方ねぇな。

その答えで自分の考えに確信を持ちつつ
せいくんに倣って食事を再開した。


それから

せいくんともう2人の同年代を加えた私達4人は
麻雀やチンピラの真似事をしながら、日々を凌いでいった。

私はもう自分の麻雀の方向性を、あまり迷わなくなった。
「俺は間違いなく凡人だから、普通の事を普通にやるだけだ」
そんな開き直りは私を随分とラクにした。

「麻雀強い人ってどんな人?」みたいな問いには、「超能力者」と答えるようになった。
誰も信じなかろうが、証明できなかろうが別に良かった。
私はそれを見たし信じた。「勝てない」と思った。
私にとっての真実だけあれば、別に不自由は無い。
まぁ、大抵は冗談か適当にあしらっていると思われるだけだったが・・・


色んな事があって、今はバラバラに過ごしている。

私は普通のサラリーマンになったし
せいくんは大学に行って、今は研究室に入っている。

電話で話をした時に、「今も麻雀は打つの?」と聞いてみた。

「もう四年も牌に触ってませんよー。それより面白いですよ、量子力学」

との事だった。
よっぽど「君の麻雀の方が不確定性原理じゃね?」とか突っ込みたかったけど
プロ相手に知ったかぶると恥をかきそうなので、止めておいた。

あの間延びした口調で、楽しげに自分の研究の話をするせいくんに水を差すのも
なんだか野暮な気がしたし。

彼はまだ静かな世界にいるのだろうか?
伺い知れないまま、電話を切った。
私は絶対にそこへは行けないから、まぁいいか。




凸本が出版され
成績や打ち筋がデータ化され
セオリーの研究が進み
麻雀の戦術はあの頃に比べて、格段にシステマティックになった。

このまま研究が進んでいくと、数値入力によって判断が一意に決まる日もやってくるのかもしれない。
それが良いとか悪いとかは知らないけど、未来の可能性の一つではあるだろう。

でも
どんなに麻雀が計算やデータで表現されても
私は一生オカルト雀士だ。

目で見たものしか信用しないのは狭量なんだろう。
でも、私はこの価値観から抜け出せないまま死ぬんだと思う。

何せ、見てしまったから。
任意の事を忘れるのは、新しい事を覚えるより難しかったりするし。

これからもずっと
自分が「普通」である事を肝に銘じて打っていく。



ホラ、いまあなたの対面に座った人も
ひょっとしたら違う世界の住人かもしれない。

静寂の世界からの視線を背中に感じたら
抗わず受け入れる事をオススメする。

卓上で起こる事だけは厳然として在る。
だったら、やれる事はひとつしか無いのだから
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非公開コメント

No title

はじめまして。いつもこそこそ拝見させてもらってます。
今回の記事とても共感できて面白かったです。
自分が強くなる上で色んな強さを知ることも大切だけど、自分がすべき打ち方を見出して貫くということは、もっと大切な気がしました。
私はまだまだディジタルやらオカルトやらにブレてばっかりです…w

No title

実に面白い!!
私の好きな世界観です!!
長い文章も行間をうまく使っているので読みやすくていいですね。

No title

>アノーンさん
はじめまして(*´ω`*)
どんな経験や研究も、結局は自分の打ち筋にフィードバックできなければ意味がありませんからねぇ。
私なんかは色々ヘンな方向に目が行ってしまって、基本的な事が何もできないくせに奇手を打って失敗してばかりですw
「デジタル」「オカルト」等、麻雀を表現する言葉は様々ですが
結局、それをどう用いるかも自分次第ですんで、都合の良いように利用していけたら良いな、と思っています。
>たかあきさん
お気に召したようでなによりです(*´ω`*)
ただ、正直あんまり読み易くは無いと思いますw
ボリュームも、まだまだ試行錯誤する余地があるかと。
プロフィール

巷の打ち手

Author:巷の打ち手
その名の通り、その辺にいる打ち手です。

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