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崩壊後の世界で

寒さに身体を丸める自らの動きで目が覚める。


最初に目に入ってくる光景は、いつもの天鳳ロビーだ。
午後1時ともなるとあまり接続者はいない。
それでも500人程は打っている状況を眺めて

「昼間っからダメ人間ばかりだな」

と暗い喜びに身を浸した。

缶ビールの空き缶とゴミの山の間を縫いながら、冷蔵庫に向かって歩く。
ビールを一気に飲み干すと、冷たさと炭酸の刺激が腐った体に染み渡り、やっと本格的な覚醒が促される。
最近まともな食事を取っていない。
ビールにつまみと煙草。
時々食べていたコンビニ弁当も受け付けなくなってきた。

ビールを数本抱えて、パソコンの前に腰を落ち着かせる。
煙草に火を付けながら、いつもの上卓を予約。
東一起親で跳満を被り腐っていると、オーラス3着目が18,000を放銃しラスを免れた。
「ざまぁ見やがれ!」
鬼の首を取ったかの用にはしゃぎまくる。
すぐにまた予約をクリック。ここ3ヶ月続けてきたルーティン。


これが今の私の仕事だ。






天鳳を打ちたい欲求を抑えきれずに、遂に自宅へのパソコン設置を決めた。

ネット通販や育児の情報取得を行えると妻を口説き落として、念願のネット開通。
当初はそれなりに喜んでいた妻の表情が憤慨に変わるのに、そう時間は掛からなかった。
家に居る間は常にパソコンの前に座っている私を、ゴミのように扱う妻。
それを煩わしいと思いながらも、ひたすら天鳳を続ける私。
口を開けばお互いを罵る言葉しか出てこない。
妻は別室で電話をしている時間が増えていった。

ある時、妻が友人と飲み会に出かける日があった。
私1人で娘の面倒を見る事になる。
一時でも長く天鳳を打ちたい私にとっては、煩わしい事この上無い。
それでも渋々食事や入浴を済ませて、「これで文句は無いだろう」とばかりに天鳳をはじめる。
そのまま娘の事を忘れ、ひたすら対局に集中する。

帰宅した妻は激怒した。
ミルクが欲しいと泣き叫ぶ娘を放置し、オムツはまったく交換されていない。
詰め寄る妻を尚も無視していると、妻がパソコンのケーブルを引き抜いた。
激昂し、妻の顔を殴りつける。

「ラス確定じゃねぇかよ!どうしてくれる!!」

慌てて配線を繋ぎ直す私を妻がどんな顔で見ていたのか。
背中を向けていた私が知る術は無い。
それ以来、会話はまったく無くなった。

その内、会社に行くのも億劫になっていった。
仕事するくらいなら天鳳を打っていたかった。
何をしていても天鳳のことばかり考え、睡眠不足なので業務中にウトウトする事もしばしば。
細かいミスを重ねて徐々に信頼を失い、顧客も離れていった。
まだその段階では私を擁護してくれる人達もいた。

「疲れてるんじゃないか?少し休暇を取るか?」

上司のそんな勧めもあったが、固辞した。
元来休みを取る事に慣れていないのだ。
上司も本音では「コイツなんとかしないと」と思っての発言だったのだろうけど、私は「忙しくてもがんばっている自分」に酔っていたのだ。
忙しい理由は天鳳で、そんな状態で働いても周りに迷惑を掛けるだけなのに。

それも長くは続かなかった。

ある大口案件の役員プレゼンで居眠りをした事をきっかけに、次々に今までのミスを追及する監査が入った。
査問委員会が下した結論は「懲戒も止む無し」

その後、かつて世話になった上司や同期の人間が奔走してくれ、会社に残る事も出来るようになったが、私はそれも固辞した。

「自分のやった事の責任は取らないと」

耳当たりの良いフレーズで「潔い人間」を気取っているが、実態は違う。
その状況で会社に残る事にプライドが耐えられなかったのだ。
見苦しくても情けなくてもすがり付いて、生活を担保しながら挽回の機会を待つべきだった。
そう後悔するのはずっと後になってからの事。
その時の私は

「これで天鳳が思う存分打てる」

そんな解放感すら感じていた。


妻から離婚届けを渡された時、それがどういう意味なのか理解できなかった。

考えてみれば当然だ。
家庭をまったく顧みず天鳳ばかりやっている夫が会社までクビになったのだ。
彼女には結婚生活を続ける理由は何も無い。
だが私は、そんな事がわからないくらい冷静な判断力を失っていた。
サインを求める妻の目は、「決めていた事をただ実行する」という透徹した決意に満ちていた。
それを「綺麗だな」などと場違いな感想を持ったのは、おそらく現実逃避だったのだろう。
何かに操られているかのように、自らの署名をした。

「じゃあ、後は全部弁護士通してやるから。置いていく荷物は捨てていいよ」

娘を連れ立って妻は出て行った。
娘が最近できるようになった「バイバイ」を笑顔でしていたのを、今でもよく思い出す。

離婚調停は異例のスピードで完了した。
妻の要求事項は初めから定まっていたし、私は自分の意思をほとんど伝えなかったからだ。

「もうどうでもいい。好きにしてくれ」

そんな捨て鉢な気分が私を支配していた。
調停の結果は「慰謝料500万円 妻と娘に金輪際近づかない」というもの。
慰謝料が少なく、養育費の要求もないが、それよりも私との関わりを一刻も早く断ちたいのだろう。
代理人に了解の旨を伝え、金を用意した。


ひとりになった私は、ネットの世界に没頭した。

天鳳を打つ傍らブログに記事を書きまくり、世界との接点を必死に守った。

「今日は家族3人で散歩に行きました☆」
「大きな仕事をまかされちゃって、ちゃんと遂行できるか不安です・・・」
「天鳳で遂に七段になりました!」

今の惨めな姿から目を逸らす為に、輝かしい現実を捏造する。

「こんな事はいずれ露見する。正直に打ち明けるんだ」

頭ではわかっていても、止める事が出来ない。
屈折した自意識と、過剰な自己愛を飼い慣らせないまま大人になった事の報いがこれだ。

ある日、ブログ読者の天鳳プレイヤーからコメントが書き込まれた。

「先日、上卓で『巷の打ち手』という方と同卓したのですが・・・別人ですよね?初段だったし」

それから、私は一度もブログを開いていない。
ついにバレてしまった。もう偽る事はできない。
それをカミングアウトする事よりも、逃げる事を選んだ。
さらなる孤独が私を包み込む。

だが、天鳳だけは止められない。
他にする事もしたい事も無い。
完全に壊れている打ち筋で、今日も対局に臨む。


巷の打ち手
初段 60pt R1214

対戦数 8743
平均得点 -4.52
平均順位 2.88

1位率 0.122
2位率 0.203
3位率 0.348
4位率 0.327
飛び率 0.088


これが今の私だ。
毎日のように鬼打ちし、たまに確変を引いてもすぐにキレ打ちと適当打ちでズルズルと落ちていく。

「ふざけんな。俺が一番強いんだ」

まったく根拠の無い自信のみを拠り所に、ゼンツ主体のコンピューター麻雀を繰り返す。


「クソッ、またラスかよ。なんであの待ちがツモれないんだ!」

缶ビールをパソコンに投げつけながら、悪態をつく。
今日3度目の5ラスだが、そんな事にはもう慣れてしまっている。
天井を見上げながら、ふと思いつく。

「そういえば、雀荘行ってないなぁ・・・」

天鳳を始めてから、麻雀は天鳳のみで打っていたので、実際に牌に触らなくなって久しい。
他人とのコミュニケーションに対する飢えが限界を向かえそうだったので、常連だった雀荘に出かけて見ることにする。
風呂に入るのはいつ以来だろう?
髭が伸びすぎていて剃刀だけでは剃れなかったので、ハサミで短くしてから剃刀を当てた。

勤め人を騙る為に、わざわざスーツを着て外出する。
以前は毎日通っていた通勤経路の公園に入ると、家族連れの喧騒が耳を突いた。

「あぁ、今日は日曜とかなのかな・・・」

曜日感覚などまったく無いので、休日だという事をそれで知った。
以前は私も娘と共にあの輪の中にいたのだ。
微笑ましく眺めていられた他の家族の光景も、今は嫌な記憶を呼び覚ます物でしか無い。
早足で駅への道を辿る。

電車に乗るのも久しぶりだ。
以前は気にならなかった他人との距離感が、やたらと癇に障る。
人の中に居ない生活で、自分の領域が拡大されているみたいだ。
満員電車で密着する事に慣れているのと、どちらが正常かはわからないけれども。
電車の正確な運行は、私がいなくても世界が正常に動いている事を雄弁に伝えていた。

「巷さん、お久しぶりですね~」
「いやぁ、仕事が忙しくてね」
「あ、だからスーツなんですか。なんか痩せてません」
「色々大変でね」
「そうですか~。はい、オシボリ」

見知ったメンバーに迎えられ、待ち席に座る。
こんな普通の会話が無性に嬉しかった。
声をきちんと出すのが久しぶりなので、喉が痛い。

「娘さん、また大きくなったんじゃないですか?」
「う、うん。まぁね・・・」
「可愛いですよね~ いつも自慢してましたもんね。最新の写真は無いんすか?」
「いや、今日は持って無いんだ」

携帯の待ち受けの娘は、ずっと前の姿だ。
今はもう言葉を話しているのだろうか?
暗い気分になりそうになった時、卓に呼ばれた。

挨拶をして牌に触る。
懸念していた程卓上の所作に問題は無く、普通に打つ事ができた。
やはり雀荘は良い。ここでなら自分を解放できる。

普段は自分から同卓者に話題を振る事は無いのだが、会話できる事が嬉しく、話掛けまくった。
最初は笑顔で応じていた同卓者も、だんだんと辟易した表情になってくる。
(さすがにやりすぎたかな)
途中からは少し気まずい雰囲気の中で、黙って打った。

半荘3戦目に入る直前、誰かに肩を叩かれた。
懸念に思って振り向くと、それは店長だった。

「巷さん、申し訳ないんですけど放歌はちょっと・・・」

私は何を言われているかわからない。

「え?歌って無いよ?俺」
「でも、歌声が聴こえるんですよね・・・」

何を言ってるんだ。私が対局中にそんな事するはず無い。
苦笑いしながら同卓者に話掛ける。

「ね?私は歌ってないですよね?」
「いや、歌ってたよ・・・うるさくてしょうがなかった」
「うん、歌と言うか、なんかブツブツ言ってた」
「発声と区別付かなくて、困ってたんだよね」

期待した擁護では無く、口々に私の放歌を認める発言をした。
おそらく、ひとりでいる時間が長かったので、麻雀の考え等を口に出してしまっていたのだろう。
だが、私にそんな冷静な判断ができるはずも無い。

「あぁ!?やって無いって言ってるだろうが!!」
「ちょっと巷さん・・・」
「お前ら全員耳おかしいんじゃねぇか!?」
「巷さん!!」
「いいぜ?とことんやってやるぜ?」
「巷さん、ちょっとこっちでお願いします」

店長に促されて、店の外に連れて行かれる。
そこで言いたい事を全て言い、頭を下げる店長を罵倒した。

「もう来ねぇよ!!」

捨て台詞を残して、店を後にする。

頭が冷えてくると、また居場所を一つ無くした事への寂寥感が込み上げてきた。
以前は卓上でがなる人間など最低だと思っていたのに、自分もその位置まで堕ちてしまった。
その事実が、自らの立場を認識させ、運動不足の足をさらに重くする。

「今日はもう帰ろう」

駅に引き返すが、人ごみが大渋滞を起こし、まったく進んでいない。
家族連れに加え、カップルの姿がやけに多く見られた。
皆、どこか浮き立った雰囲気を醸し出している。
ふと、ビルに映し出されたテレビの映像に目をやると
ニュースキャスターが今日が12月25日である事を告げていた。

クリスマスだったのか・・・

昨夜天鳳への接続者がやけに多かった理由に合点がいった。
そんな浮世の年中行事に気付かないほど、私と世間の断絶は根深いものになってしまったのか。
もう、私が普通の人間の営みに戻るのは不可能に思えた。

やっとの思いで家に帰り、照明を付ける。
カーテンの無いこの部屋は、冷気を防ぐ物が何も無い。
お湯を沸かすのも億劫なので、やはりビールで喉を潤した。


この生活があとどれくらい続けられるだろう?

わずかな退職金は慰謝料に消え、失業保険もいずれ打ち切られる。
自分の肉体をまったく顧みない生活では、いつ体を壊してもおかしくない。
精神の均衡が崩れているのも、今日強く自覚した。
来年の今を迎えることはできるのか。

考えれば考えるほど鬱になるので、そこから逃れる為にまた天鳳を予約した。
無機質な電子音の後、対局が始まる。

私にはもう、これしか無いのだ

















えっと、念のために書くと、これはフィクションですw

天鳳をはじめて、ほとんど寝ないでネカフェに通っていた頃に、この文章を書きました。
ちょうど福地先生のブログに「家庭崩壊雀士」として登場した(してしまった)時期です。

普通はこれを読んでもネタにしか見えないと思いますが、私はマジで怖くなりました。リアル過ぎて。
だからこそ戒めとして機能してくれて、今ではそれなりに普通の生活を送れています。

身を持ち崩す理由は「酒・金・女」と言われていますが、私は「天鳳」で崩れそうでした。
皆様がこのような事が無きよう、祈っています。(ねぇよ!!)
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非公開コメント

No title

この物語はノンフィクションです。
みなさん今からでもおそくはありません。
いますぐ天鳳をやめましょう。
そして家族を大切にしましょう。

No title

FF11などオンラインRPGなら普通にありそうですね。
家庭崩壊や精神の崩壊とか。
天鳳の中毒性は、まだ軽い方と思ったり。
しかしながら面白い記事でした。ファンになりました。
これからも更新楽しみにしてまっす。

No title

>和風さん
これをフィクションにするのもノンフィクションにするのも、各打ち手の裁量に懸かってますねぇ。
実際何を優先するかは個々の自由だとは思いますが、とりあえず身の回りの人くらいはケアする余裕が欲しいですねw
>とおりすがりさん
MMOとかは相当ヤバそうですね。
救いの無い体験談を結構聞きます:(;゙゚'ω゚'):
「天鳳」はどうかわかりませんが、「麻雀」は割とやばいと思ってますw
こういうコンテンツのブログなのかは謎ですが
今後ともよろしくお願い申し上げます(*´ω`*)

No title

久しぶりに読んだけど、イイハナシダナァー( ;∀;)
ちゃんとmixiをブログって書き直しているところがワロタww

No title

>カントリー
いつ読んでも救いの無い話ではあるなw
俺が最低過ぎる・・・
ドボン天国の時点で書き直しはしたんだよね。
こんな短期間でも、時節は動くもんだなぁ

No title

怖くなったけど自分が半分当てはまってるので泣きたくなりました。

No title

>このきーさん
マジすかw
私はまだ3割lくらいなので、大丈夫ですね(*´ω`*)
プロフィール

巷の打ち手

Author:巷の打ち手
その名の通り、その辺にいる打ち手です。

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