スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キレウチック・レコード1998

■ 1998年 17歳


息を潜めて前に出るタイミングを窺っている。

下手に攻勢に出てそれを潰されたら一気に標的になり、潰されるのが目に見えているので
慎重に他家の動向を読みながら、引き気味に打つ。
ミスができない重圧が場を支配し、打速は遅く、判断は鈍くなっていく。

と、いうのが他の3人の動き方だったが
僕は敢えて精度の低い打牌を繰り返し、そのリアクションを観察する事で判断を下す事にした。
我慢比べに付き合うのは面倒で、苦しい。
フォーカスをずらしつつ、場を俯瞰的に捉える事で、楽な立ち位置を確保しようとしていた。

そんな僕がタコに見えるのか、下家の男は僕を見てしきりに舌打ちや溜息をしている。
そういう隙を見せる事が、脱落への第一歩になる事を僕は良く知っているので
(あぁ、潰れるなコイツ)
と思いつつも、もちろん表面には何も出さないまま、微妙に危険な牌を場に打ち出した。






その部屋にはビリヤード台やダーツ、カードをプレイするテーブル等が置かれていて
部屋の隅には簡単なバーラウンジも設けられているが
メインは中央に置かれた自動卓だ。

「客」達は卓に対して放射線状に置かれたソファーや椅子に座り
酒や煙草を片手に、ある者は談笑しながら、またある者は血走った目で打ち手達に視線を注ぐ。

その卓にレートは乗っていない。
つまり、勝っても負けても打ち手自身の懐にはまったく影響は無い。
ただし、客は別だ。

客は思い思いの打ち手に金を賭けて、その勝敗に合わせた配当を受け取る。
賭ける対象は順位や素点と様々で、馬券と同じように枠や連もある。
一般的に外ウマやホッカイドウと呼ばれる物の発展形だ。

この地域には競馬・競輪・競艇場はもちろん、場外売り場すらない。
そうなると、住人のギャンブル欲は必然的にパチンコや麻雀に向かう事になるのだが
本当の中毒者達はこぞってノミ屋を利用して、公共ギャンブルや時にはプロ野球の勝敗に一喜一憂している。
この場のオーナーもノミ屋の胴元で、麻雀好きが高じて半分道楽でこの「麻雀競馬」をはじめた。
存外にコレが当たって、今の所順調な売り上げを出し続けている。

普通の外ウマと大きく違うのは、「パトロン」の存在だ。

基本的に打ち手はハウス側が用意する事になっている。
当然胴元はコミッションを取っていて、打ち手は成績に応じた報酬を受け取る。
強い打ち手の方には客が付き、長く雇用され
負け続けるとすぐにクビを切られる。

麻雀は実力に拠らず短期の成績が偏るゲームだから
どんなに強くても、長く続く打ち手はなかなかいない。
結果、慢性的な打ち手不足に陥る事になる。

そこで採用されたのがパトロンシステムだった。
金を持っている客がオーナーに口を利いて、自分の推薦する打ち手を打たせるのだ。
ハウス側は普通の成果手当てと紹介料をパトロンに払う。
打ち手は約束に応じた報酬を、パトロンから受け取る。

支出は多くなるのでハウス側にとってあまり良い事では無いように見えるが
パトロンは自分の打ち手に大きく張るケースが多かったし
パトロン同士の争いによって麻雀競馬自体が盛り上がっていったので
ハウス側は外部の打ち手の参加を奨励していった。


僕は打ち手として、そのどちらも経験している。


もともとオーナー筋の紹介でハウス側の打ち手として5ヶ月程ここで打っていたのだが
ある時に大穴を開けて、店を放り出される事になった。

店を出た直後に、5,6人の男達に襲われた。
いきなり背後から首筋を鈍器で殴られ、倒れた所に殺到した靴先が僕を打ちのめした。
背の高い街灯のみが照らす薄闇の中、一人だけ確認できた顔は、私に頻繁に張っていた麻雀競馬の客だった。
ここ最近の僕の負けによって、彼もまた金を失ったのだろう。

こういう時、慣れた人間だったら腹や尻などの証拠が残り難い部分のみを甚振るものだが
相手は素人のようで、顔や頭部も構わず攻撃の的にしてきた。
僕は拳を握りこんだ両手で頭を抱えながら、ひたすらに耐える時間を過ごす。
顔に怪我をしてしまうと後で色々と面倒だし、指先を痛めると麻雀が打てなくなるからだ。

尾てい骨に食い込んだつま先が、背中から脳天に強烈な痛みを伝え
思わず上げた顎を、鈍器で横薙ぎに殴られた。
頭が揺れ、意識が混濁した僕は土下座のような格好に崩れ落ちて
そこに唾を吐きかけられたのを最後に、男達は去っていった。

屈辱と痛みに大声を上げたいが、脇腹が痛んでそれもままならない。
一方的な暴力を受けた時にいつも感じる惨めさと敗北感に引き千切られそうになったまま
そこから暫く動く事ができなかった。


翌日は日曜日だった。

休日はいつもやっている堅気のアルバイトを休む事にして
痣だらけの体をベッドに横たえて過ごした。
負けた麻雀、その後に蹴り飛ばされた記憶。
熱を持った身体がそれらを忘れる事を許さなかった。

(俺はこんなんでこの先どう生きていくんだろう?)

物事が上手くいかなくなった時、いつもこんな弱気が頭を過ぎる。
1年前は本当に金が無かった。
食事をする事もままならず、パンや菓子を盗んだりしていた。
普通のバイトとは比べ物にならない報酬を与えてくれる仕事は、昨日クビになった。
また別の仕事を探すしかない。
だが、学校に行きながら未成年が稼げる金額なんて高が知れている。
学費と家賃を払ったら、もう他の余裕はまったく無くなる。
また食べ物を盗んで暮らすのか?
飢えと不安を抱えたままの生活に戻るのはもう嫌だ。

(でも、どうすればいい??)

堂々巡りの思考を打ち消したのは、インターホンの音だった。
最初は体を動かすのが億劫で無視していたのだが、4度5度と鳴り続ける電子音に辟易し
重い足を引きずって玄関に立った。

ドアを開けると、大柄な男が姿を現した。
僕がなかなか出て来なかった事への苛立ちを隠さずに、ぞんざいに顎で外をしゃくった。
ベンツのSクラスが自宅前の道路に横付けされている。
「乗れ」という事だろう。

(昨日の事だろうか?また何かされるのかな・・・ まさか殺されはしないだろうけど)

不吉な想像が駆け巡るが、こんなところにいつまでも居られては近所から何を言われるかわからない。
拒否権も無さそうだったので、男に促されるままに後部座席に滑り込んだ。

隣に乗っていた男には、見覚えがあった。
麻雀競馬によく来ていた客で、確か・・・

「いきなり訪ねてすまんね。シマダです」

そうだ、シマダだ。
一応土木系コンサルタントの会社という肩書きだったはずだが、実際は土着のヤクザ者だ。
まだ50代そこそこなのに、組織の運営は後進に譲って隠居を気取っているらしい。
それでも権力は顕在で、今でも誰もが頭を下げる大物だ。
慌てて挨拶を返しながらも、最大級の警戒をした。

(まずい。本当に殺されたりするかもしれん)

そんな僕の緊張を見て取ったのか

「取って喰ったりしないから安心しなさい。別のところでゆっくり話をしよう」

苦笑しながら穏やかに言い聞かされる。
いや、むしろ怖いですから、それ。

戦々恐々としたまま車に揺られる事約20分。
連れて行かれたのは住宅街に程近い料亭だった。
店先にさり気なく置かれた庭石に生える苔の厚さが、店の伝統と格式を端的に表しているようだ。
密会や密談に使われそうな閉じた佇まいが、こういう事にはまったく疎い僕にもここが「本物」である事を理解させた。

離れの小振りな座敷で向かい合い、瀟洒な酒器で冷酒を飲み下すシマダをバカみたいに見ていたら
女優のような女将に飲み物を聞かれたので、「ビール」と答えておいた。
当時は酒など殆ど飲めなかったんだけど、オレンジジュースとかを頼むのはガキっぽ過ぎて気が引けた。(そういう発想がガキなのだが)
すぐに運ばれて来たやたら小さなグラスビールを、無理矢理飲み干して
目を瞑って苦味に耐えていると、シマダがやっと口を開いた。

「昨日であそこはクビになったんだって?」

やはりそれ関係の話題か。
なんだろう?シマダも僕に賭けて損をしたクチだろうか?
相手が相手だから嘘を言っても仕方が無いので、正直に答える事にした。

「ええ。負けまくったから、俺」
「でも、それまでは随分長く凌いでたじゃないか。その若さで大したもんだ」
「それでも、負けたら意味が無いです。結局お払い箱だ」
「あそこのオーナーは人を入れ替えるのが好きだからね。それは危険なやり方なんだけどなぁ」

当時は何が危険なのかわからなかったが、今は少しわかる。
人を切るという事は、出入りする人数が増えるという事で
それは守秘性とセキュリティ性の崩壊に繋がる。
特にああいう場は存在自体が違法なので、本来はある程度の時間を掛けて信頼できる人間を選抜し
少数精鋭で運営するのがリスクの少ないやり方だろう。

「ところで・・・」

自然な調子でシマダが話を続ける。
内心「来たッ!」と思っていた。

「お前、俺をパトロンにして打たないか?」
「へっ?」

余りに予想外だったので、頭が真っ白になった。
さぞアホ面をしていた事だろう。

「前から目を付けてたんだ。今はまだそれ程強くないけど、このまま打っていけば、いずれとんでも無い打ち手になるんじゃなかってね。何せ、若い。その可能性を買ってみたい。ハウス側からの金は全部やるから、俺を紹介者にしないか?」

何と、シマダの用件とはスカウトだったのだ。
いや、パトロンとしての自分を売り込みに来たと言った方が正しいかもしれない。
驚きつつも、損得勘定に頭をフル回転させた。

(なぜこんな大物が俺なんかに声掛けるんだ?)
(金持ちの道楽みたいなものだろうか?)
(それにしたって、やる事が小さいな・・・ 裏があるのかもしれない)
(でも、確かに条件は魅力的だ)
(殆どノーリスクで金が入るのはありがたいし、シマダがバックにいればヘンな奴らからコナかけられる事も無くなるだろう)
(だが、それで良いのか?ここでヤクザ者と関わったら、一生後悔するかもしれない。将来ヤクザに就職なんて事も有り得る)
(大体、俺は誰にも本名すら言ってなかったのに、いきなり家にまで来やがった。アレは遠回しな脅しじゃないのか?)

色々考えたが、結論としては「背に腹は替えられない」というものだった。

「わかりました。やらせて下さい」

その答えを聞いて満足そうな表情になったシマダを見ながら
胸の内ではもう覚悟を決めていた。

(やるしか無いんだ。こうしないと生きていけないんだ)

本当はそんな事は無かったと思う。
幼さ故の視野狭窄が、目の前にぶら下がった選択を無思慮に決めてしまったのだろう。
追い込まれた小僧っ子を落とすのなんて、「大人」に掛かれば簡単なものだ。

ともあれ
僕はシマダの飼い犬になった。


それから、麻雀競馬の場では色々な事があった。

後ろ盾ができた事で安定したのか、常に僕の成績は連帯側にあった。
シマダはよく見に来ていたが、誰に張るでもなく僕の麻雀を眺めていた。
時々交わす言葉も「調子はどうだ?」程度のもので、特に何かを命じられたり咎められる事も無かった。
シマダの使いから定期的に渡される封筒には、明らかに麻雀競馬の報酬以上の札束が入っていて
シマダが色を付けている事が窺えた。

(なんで俺なんかにこんなに色々与えるんだろう?)

いくら僕がバカでも、流石に気味が悪かったが
やっぱりバカなので、そこには目を瞑って年齢不相応な金を同年代のチンピラとの遊びに費やした。
金の使い方を知らなかったのもあるし、できるだけその世界の金はそこで消費したかったというのもある。
僕はまだ堅気に戻るつもりだった。
必要な分以外の金を表の世界で使ってしまったら、何かが終わるような気がして
普段の生活に必要な分は、できるだけ堅気の方のバイト代で賄った。(まぁ、全然足りてなかったけど)

殴られたり因縁を付けられる事はまったく無くなった。
その替わり、嫉妬やヤッカミの混じった目で見られる事が多くなったが
僕はまったく気にしてなった。
「他人にどうこう感じる余裕があるんなら、別の事すれば良いのに」
そんなドライな考え方で、グチグチ言う連中は一蹴していた。
人の心の機微が分かっていなかったのだ。


その日も、いつものように淡々と牌を捌いて
下家が4連敗して席を立ったので、面子が揃うまでの時間を卓上をぼんやりと眺めながら潰していた。

ハウス側に付き添われながら男がやってきた。
その顔を見て、少し驚いた。
あの日、僕に暴行した中のひとりだったのだ。
あれからもコイツはここで麻雀競馬に勤しんでいて、何度か顔も合わせているが
一言も口をきいた事は無かった。(当然と言えば当然だが)

賭ける段になって、男がハウス側に紙を渡しているのを見て、ピンと来た。
コイツは「ハリ打ち」だ。

「ハリ打ち」とは、自分もプレイヤーとして勝負に参加し、外ウマも張る事だ。
その場合の賭け方は「自分のトップ」のみに限定される。
順位操作がある程度できる以上、当然の措置だ。
普通とは逆に、打ち手は自分の打ち代としてハウス側に金を払わなければならず、かなりリスクが高い。

普通、こんな事は許されないのだが
負けが込んだ客が怒鳴り込んできた場合や打ち手が足りない時に、ハウス側が止むを得ずやる事がある。
この場合は、打ち手は他にも何人かいたので、前者だろう。

こうなったヤツは大抵もうダメだ。
借金で首が回らなくなった挙句に自分で打つケースが殆どで
その状態で勝てる程麻雀は甘くない。
大体、そうなるような奴が強かった例は皆無だ。

外から麻雀を観戦していると、打っている人間が下手に見えるものだ。
「自分だったらもっと上手く打てる」そういう錯覚を抱く人間は多い。

だが、違うのだ。

実際に卓上での情報を処理するのと、ただ見ているのには雲泥の差があるし
大抵、麻雀において人は自分を過大評価している。
見ていて「下手だな」と思ったら、自分と同じ様なランクだし
「まぁまぁだ」と感じたのなら、格上である事が多い。

僕が居る卓に入って来たという事は、勝つ目算があるのだろう。
僕は最年少の打ち手だったから、今までそういう輩のマトにされてきた。
その行く末を、コイツは見ていないのだろうか?


勝負がはじまった。

新しい面子が入って来た時は、重い場になる事が多い。
失策を犯したり、リーチがかち合って致命傷を負うのを恐れるからだ。
ダマや仕掛けへの警戒から、中盤以降は絞り合いやオリ合いになり
流局や安手での決着が多くなる。

僕だけは無神経な牌を意識的に切り続け、それで放銃をしたりしていた。
どうせ消耗戦になるから、体力と精神力を温存しておく為だ。

下家にダマ満を放銃して、最初の半荘は終わった。
僕はラス、トップは下家だ。
1戦1戦が大勝負である下家は、目に見えて安堵していた。
僕は何も考えていない。
ひとつの戦歴に一々何か感じていたら身が保たない。
ちょっとした着順や点棒よりも、自分をフラットにする事を優先させた。
ここで生き残る為に身に付けた処世術。

ハウス側が観戦者からベッド内容を書いた紙を回収したのを確認し、2ゲーム目をはじめた。
東2局の5巡目に、親の下家がリーチを打ってきた。
捨て牌は字牌端牌ばかりで、あまり情報が無かった。
それを受けた僕の手牌はこう


一萬二萬三筒四筒四筒六筒六筒八筒七索八索九索東白  ツモ五索  ドラ四索


クズ手だ。はっきり言ってどうしょうも無い。
オリるんなら東白だろうが、それも生牌。
進退窮まっている。

僕はドラ傍の 五索をノータイムでツモ切った。
危険牌の筆頭と言って良い牌の切り出しに、場が緊張する。

その後もドラの 四索五萬 を勝負して、13巡目にこの形の聴牌


一萬二萬二筒三筒四筒四筒六筒六筒六筒八筒七索八索九索  ツモ七筒  ドラ四索


辺張での聴牌。
僕はやはり四筒を勝負して、ダマにした。
脇は親リーと僕の押しに対して、すっかりベタオリしている。
ここまで僕は全てノータイムで勝負している。
それが当然だろう。

そして次巡


一萬二萬二筒三筒四筒六筒六筒六筒七筒八筒七索八索九索  ツモ三萬  ドラ四索


「300・500です」

倒した手牌を見て、下家が唖然としている。
なかなか点棒が出てこないので怪訝に下家を見たら
僕の顔を真っ直ぐに見て文句を言ってきた。

「何だこれ?舐めてんのか?こんなクソ麻雀で勝負を壊されたんじゃ困るんだよ。ヘタクソが!」

特に表情を変えずに、首を傾げる事で応えた。
何も言わない僕に苛立ったのか

「聞いてるんのかよ!頭まで鈍いのか?このバカは!!」

と、さらに声を荒げた。
シマダの子飼いになって以来、久しぶりの経験だった。
仕方が無いので、答える事にした。

「俺はこんなのは勝負だとは思ってないし、舐めるほどあなたを気にしていない。早く点棒を出して下さい」

何の感情も込めずに言い返した。
一瞬キョトンとした後、みるみる肩を震わせながら顔を俯かせ
投げるように点棒を渡してきた。
ここで暴力沙汰を起こしたらどうなるか分らないほど頭は悪く無い様だ。

(終わったな)

抱いた確信は、他の2人や賭ける人間達の共通の見解だっただろう。
もうコイツはダメだ。
後は他の2人との「勝負」に集中すれば良い。


その後

トータル12半荘の中で、男が連帯できたのは最初の1回だけだった。
10ラスに3着が一回の、これ以上無い負けっぷりを披露し
自分に賭ける金が無くなった男は、ゆっくりと席を立った。
その頃には男自身以外に男に賭ける人間はいなくなっていたので
遠からずハウス側も男を排除していただろう。
それが少し早まっただけだった。

去り際に、男が僕の元にやって来た。
荒事の予感にハウス側の人間が警戒していたが、僕は躊躇無く男に近付いていった。
憔悴し切った男には、もう何もできないと思ったから。

「なぁ、あの日お前をボコるように指示した奴を知ってるか?」

僕の目を見ずに、耳元に口を近づけた男の声は歪んだ喜色に染まっていた。

「お前の飼い主のシマダだよ。しょせんお前なんかアイツの掌の上なのさ」

ケケ、と金属が擦れたような声を立てて
男は出口に消えていった。


驚きも失望も特に無かった。

僕はシマダに恩義を感じたことも無かったし
アイツにとって玩具以下の存在である事も自覚していた。
あの時のタイミングの良さに、合点がいったくらいだ。

その時思った事は
ちょっとした真実を伝える事くらいしか、僕にダメージを与える手段を持たなかった男への哀れみと
(自分もいつかああなるかもしれない)という老いへの恐怖にも似た乾いた感情だった。

たぶん
僕もこういう事を続けていく限り、心が磨り減ったり狂ったりしていって
いつかクズに成り果てるのだろう。

「生活の為だから」
なんて事が全てを正当化するはずも無い。
何人もの人を不幸にしてきたし、ひょっとすると間接的に殺しているかもしれない。
貴重な自分の10代の時間を腐った行為に沈め続けて、何の報いも無しという事は無いだろう。

(だったらどうすれば良いんだ?もう引き返せない。死ねっていうのか?)

突っ張った考えでは拭い切れない焦燥と虚無を見ないようにしながら
また卓について、無益なパズルゲームに没頭する。
他に現実から目を背ける手段を知らないから。

シマダが部屋に入って来た。
少し愛想笑いを作って会釈した僕に
手を挙げて応えるシマダの顔が、あの男の顔が重なって--

陰鬱になった気分を
牌の感触にすり替えた
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

おもしろかったです(´∀`)

ホント文才ありますね、とつくづく思います(^ω^)
出版された小説の短編の1話と言われても分からない
くらい完成されてますね。たくさん話を書きためてると思いますが、
いつか書籍になったものを読みたいです(笑)
二つ目の牌姿なですが、4pがもう1枚必要じゃないですか?
7pをツモった時点での牌姿なら14枚ないといけないですよね。
勘違いならすいませんm(_ _)m

No title

>コメさん
文才とかはまったく無いと思ってます。
単に、ひたすら麻雀の記録を付ける時に文章を書いた経験の手癖で書いてる感じですねぇ。
こんなのは、才能じゃ無くて訓練の結果です。
御指摘ありがとうございました。
修正しますた(*´ω`*)
プロフィール

巷の打ち手

Author:巷の打ち手
その名の通り、その辺にいる打ち手です。

最新記事
最新コメント
リンク
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。