
Teaching to childish drinker

※非麻雀です。お酒の話っす。
私がお酒を本格的に飲み始めたのは、ここ数年の事だ。
雪国かつ酒どころの出身のせいか、家系的に皆酒が強い為(特に父親とその兄弟は全員化物だ)
私も例に漏れずかなり飲める方だったのだが
あまり日常的に酒を飲む習慣は無かった。
就職してからは仕事と麻雀だけみたいな生活で
その両方にアルコールは禁物だったから。
妻と付き合うようになって、酒量が激増した。
たぶん年間ベースで50倍くらいになったんじゃないだろうか?
二人で週末引き篭もると、ビールが3~5ケースくらい空くのはザラだった。
はっきり言って頭が悪いと思う。
ビール以外にも、色々な酒を試した。
リキュールを買ってきて贋作カクテルを作ってみたり
カッツを色々集めてみたり
水割りに合う芋焼酎を探したり。
今現在私はウイスキーを主に飲んでいる。
たぶん、ここが終着点のような気がする。
これ以降はずっとウイスキーになりそうだ。
ウイスキーを飲み始めた当初
それを真っ先に報告しに行った人がいる。
バーテンダーのTさんだ。
「やっとウイスキーの美味しさが少しだけわかるようになりました」
とTさんに告げると
大喜びして、山崎の12年・18年とマッカランの12年・25年(!) を格安でサービスしてくれた。
美味しかったし嬉しかったんだけど
それよりも何よりも、Tさんが物凄く楽しそうに私にウイスキーを注ぐ姿が良くって
久しぶりに腹の底から愉快な気分になった。
Tさんと初めて会ったのは、もう7年前になるだろうか。
入社したての頃の私に、友人から連絡があった。
「今度結婚するのだが、結婚式や二次会とは別に、特に親しい仲間だけで集まって事前に飲みたいので、その幹事をやってくれないか?」
といった申し出だった。
そして、奥さんの要望で、会場は「感じの良いバー」と決まっているらしい。
特に深く考えずに快諾した後に、困った。
当時まだ二十歳そこそこの私が「感じの良い」どころかバー自体をまったく知らなかったし
そもそも、本格的なバーに行った事すら無かったのだ。
今もそうなんだけど、ノリで安請け合いする癖を何とかするべきだと思う。
困り果てた挙句に、神奈川に住む叔父を頼って教えて貰う事にした。
この叔父さんは凄くトッポい人で、そういった「大人の遊び場」とかに詳しいと思ったのだ。
果たして「良いバーテンのいる店がある」という情報をゲットした私は
「いや、バーテンはどうでも良いんだけど・・・」というガキ丸出しの考えを抱きつつ、教えられた店に一人で向かった。
薄暗い店内の中で、一枚板のカウンターが官能的に光っている。
整然と並べられたボトルにはそれぞれ表情があるように見える。
カウンターの内側で、バーテンが寡黙に酒を作っている。
「うわぁ・・・ 大人の世界だ・・・」
早くも気後れしつつも、通されたカウンターに腰を掛けた。
目の前に一番年配のバーテンが立って、おしぼりとナッツ・チョコレートを渡してくれる。
「すみません、こういうところ初めてなので何頼めば良いかわからないんです・・・」
正直にそう告げると、彼は私に少しだけ質問をした
食事はしてきたのか?
お酒の度数はどの程度まで大丈夫か?
伝えると、穏やかに微笑みつつ
「一杯目はとりあえず渇きを潤す為に、ギムレットやジントニックを飲むお客様が多いです。ライムの状態が良いので、ギムレットはいかがでしょうか?」
と勧めてくれた。
素直にギムレットを頼んだ。
少しだけ口を付けて、当初の目的について切り出してみる。
返答は意外だった。
「あぁ、もしかして巷さんですか?」
「えっ なぜご存知なんですか??」
「ご連絡を頂いていたもので。ご友人の結婚の催しでしたよね」
事前に叔父が連絡を入れてくれていたのだ。ありがたい。
おかげで、調整はスムーズに進んだ。
今考えると、ああいう落ち着いたお店で宴会的な事をするなど、店側としては噴飯物だったかもしれない。
オーセンティックなバーだから尚更だ。
それなのに快く応じてくれたそのバーテンの懐の広さを推し量るようになったのは、私がもう少し世間慣れした後だった。
色々なプランを貰いながら、その日は結局ギムレット1杯でお店を出た。
そのバーテンが、バーのオーナーでもあるTさんだった。
結婚の集まりは大成功だった。
最初はTさんのお店で、各々が様々なカクテルを注文して飲んだ。
物知らずな若者の滅茶苦茶なオーダーだったのに、嫌な顔一つせずに対応してくれた。
その後、Tさんが話を付けてくれていた近くのマジックバーに行って、カウンターでマジックを見た。
これは参加者全員に伏せていたので、皆に驚いて貰えたし、大好評だった。
通常は貸切で15万円程度掛かる所を、Tさんの口利きでその4分の1程度で収める事ができた。
完全にTさんにおんぶに抱っこである。
それが終わった後、すっかりTさんが好きなった私は
数ヶ月に1度のペースで、時々バーに顔を出すようになった。
本当はもっと行きたかったけれど、正直私の財布には分不相応なお店だったので
何かの区切りや、気分を変えたい時にひとりで行って、カウンターでTさんと話をした。
Tさんはいつ行っても私を常連のように扱ってくれたし
遥かに若輩者である私に対しても、丁寧な物腰を崩さなかった。
そして、少しずつ私にバーの作法を教えてくれた。
「カウンターはバーの命みたいなものですから。バッグやマフラーを置かれると悲しくなります。カウンターに足を乗せた男を、先輩のバーテンがアイスピックで脅しつけたのを見た事もあります」
「バーで『おすすめ』や『おまかせ』とは絶対言わないで下さい。ちょっと気の強いバーテンだと『全部おすすめです』『おまかせなら、どんなオールドボトルでも良いんですね?』とか言い返されたりします。バーではお客様が主役ですから、バーテンはお客様が心地良い時間を過ごせるようにお手伝いするのが仕事です。その為に必要な情報はきちんと与えてあげて下さい。ノーヒントじゃ切ないです」
「カクテルやボトルの名前なんか知らなくても良いのです。それを知るべきなのは商売人側であって、お客様では無い。でも、バーやバーテンがマニアになってもいけません。あくまでサービスのために知識があるのであって、知識だけになってしまっては何の意味もありません」
「さっき帰った女性、いつも夕方過ぎに来て軽いカクテルを2杯と、ブレンデッドを2杯飲んだ後、最後シングルモルトでキリッと締めて夜の街にまた出て行くんですよね。ああいうの、粋です。バーの使い方をちゃんと知ってる」
「巷さんもここ以外に色々なバーに行ってみて下さい。お酒と一緒で、バーも色々なお店を比べてみて初めて自分に合った場所を見つけれるものです。色々なバーテンがいますから、距離感を楽しんでみて下さい」
幼稚以前の酒飲みだった私は、Tさんのお陰で少しだけお酒に関するマナーや理念を吸収していった。
こういうのって、誰かに教えてもらわないと絶対にわからないと思う。
昔は上司とかの目上の人が教えてたんだろうけど、最近はそういうのも少ないんじゃないだろうか?
私はラッキーだったと思う。
ある時
私のチェックの中に、チャージが無い事に気付いた。
バーのチャージというのは、おしぼりや氷等の最低限担保しなくてはいけない部分に対する料金だと理解している。
特に、私のようにいつも2,3杯しか飲まないような半冷やかしの客からは、チャージを取らないとやってられないだろう。
その事をTさんに言って、チャージを払おうとすると
「巷さんからはまだ頂けません。大人の飲み手になったら頂きます」
と一蹴された。
確かに、その店の客層の中では私は飛び抜けて若かったし
私は飲み手としては未熟もいいところだろう。
が、やはり悔しかった。一人前扱いされていないようで。
あんまり悔しかったので、机上で色々勉強してみたりもしたけれど
おそらくTさんが言いたいのは、そういう事では無いと気付いて止めてしまった。
「たぶんこれは、ある程度年月が解決するしか無いんだろうなぁ」
と割り切って、チャージを払わない日々をそのままに過ごした。
振舞われたウイスキーの最後を、いつも飲んでいるグレンリベット12年で締めて
チェックをお願いした。
ウイスキーの代金が死ぬ程安く記載されているその下に
小さく「charge」と書かれた欄があった。
私がちゃんとした飲み手になったとは、とても思えないので
ウイスキーを飲めるようになった事への、Tさんなりのお祝いなんだと思う。
「すみません、精進します」と言って頭を下げた私を
Tさんがどんな顔をして見ていたかは知らない。
私の行きつけのバーには師匠と父親がいる。
そんな自慢でした。
私がお酒を本格的に飲み始めたのは、ここ数年の事だ。
雪国かつ酒どころの出身のせいか、家系的に皆酒が強い為(特に父親とその兄弟は全員化物だ)
私も例に漏れずかなり飲める方だったのだが
あまり日常的に酒を飲む習慣は無かった。
就職してからは仕事と麻雀だけみたいな生活で
その両方にアルコールは禁物だったから。
妻と付き合うようになって、酒量が激増した。
たぶん年間ベースで50倍くらいになったんじゃないだろうか?
二人で週末引き篭もると、ビールが3~5ケースくらい空くのはザラだった。
はっきり言って頭が悪いと思う。
ビール以外にも、色々な酒を試した。
リキュールを買ってきて贋作カクテルを作ってみたり
カッツを色々集めてみたり
水割りに合う芋焼酎を探したり。
今現在私はウイスキーを主に飲んでいる。
たぶん、ここが終着点のような気がする。
これ以降はずっとウイスキーになりそうだ。
ウイスキーを飲み始めた当初
それを真っ先に報告しに行った人がいる。
バーテンダーのTさんだ。
「やっとウイスキーの美味しさが少しだけわかるようになりました」
とTさんに告げると
大喜びして、山崎の12年・18年とマッカランの12年・25年(!) を格安でサービスしてくれた。
美味しかったし嬉しかったんだけど
それよりも何よりも、Tさんが物凄く楽しそうに私にウイスキーを注ぐ姿が良くって
久しぶりに腹の底から愉快な気分になった。
Tさんと初めて会ったのは、もう7年前になるだろうか。
入社したての頃の私に、友人から連絡があった。
「今度結婚するのだが、結婚式や二次会とは別に、特に親しい仲間だけで集まって事前に飲みたいので、その幹事をやってくれないか?」
といった申し出だった。
そして、奥さんの要望で、会場は「感じの良いバー」と決まっているらしい。
特に深く考えずに快諾した後に、困った。
当時まだ二十歳そこそこの私が「感じの良い」どころかバー自体をまったく知らなかったし
そもそも、本格的なバーに行った事すら無かったのだ。
今もそうなんだけど、ノリで安請け合いする癖を何とかするべきだと思う。
困り果てた挙句に、神奈川に住む叔父を頼って教えて貰う事にした。
この叔父さんは凄くトッポい人で、そういった「大人の遊び場」とかに詳しいと思ったのだ。
果たして「良いバーテンのいる店がある」という情報をゲットした私は
「いや、バーテンはどうでも良いんだけど・・・」というガキ丸出しの考えを抱きつつ、教えられた店に一人で向かった。
薄暗い店内の中で、一枚板のカウンターが官能的に光っている。
整然と並べられたボトルにはそれぞれ表情があるように見える。
カウンターの内側で、バーテンが寡黙に酒を作っている。
「うわぁ・・・ 大人の世界だ・・・」
早くも気後れしつつも、通されたカウンターに腰を掛けた。
目の前に一番年配のバーテンが立って、おしぼりとナッツ・チョコレートを渡してくれる。
「すみません、こういうところ初めてなので何頼めば良いかわからないんです・・・」
正直にそう告げると、彼は私に少しだけ質問をした
食事はしてきたのか?
お酒の度数はどの程度まで大丈夫か?
伝えると、穏やかに微笑みつつ
「一杯目はとりあえず渇きを潤す為に、ギムレットやジントニックを飲むお客様が多いです。ライムの状態が良いので、ギムレットはいかがでしょうか?」
と勧めてくれた。
素直にギムレットを頼んだ。
少しだけ口を付けて、当初の目的について切り出してみる。
返答は意外だった。
「あぁ、もしかして巷さんですか?」
「えっ なぜご存知なんですか??」
「ご連絡を頂いていたもので。ご友人の結婚の催しでしたよね」
事前に叔父が連絡を入れてくれていたのだ。ありがたい。
おかげで、調整はスムーズに進んだ。
今考えると、ああいう落ち着いたお店で宴会的な事をするなど、店側としては噴飯物だったかもしれない。
オーセンティックなバーだから尚更だ。
それなのに快く応じてくれたそのバーテンの懐の広さを推し量るようになったのは、私がもう少し世間慣れした後だった。
色々なプランを貰いながら、その日は結局ギムレット1杯でお店を出た。
そのバーテンが、バーのオーナーでもあるTさんだった。
結婚の集まりは大成功だった。
最初はTさんのお店で、各々が様々なカクテルを注文して飲んだ。
物知らずな若者の滅茶苦茶なオーダーだったのに、嫌な顔一つせずに対応してくれた。
その後、Tさんが話を付けてくれていた近くのマジックバーに行って、カウンターでマジックを見た。
これは参加者全員に伏せていたので、皆に驚いて貰えたし、大好評だった。
通常は貸切で15万円程度掛かる所を、Tさんの口利きでその4分の1程度で収める事ができた。
完全にTさんにおんぶに抱っこである。
それが終わった後、すっかりTさんが好きなった私は
数ヶ月に1度のペースで、時々バーに顔を出すようになった。
本当はもっと行きたかったけれど、正直私の財布には分不相応なお店だったので
何かの区切りや、気分を変えたい時にひとりで行って、カウンターでTさんと話をした。
Tさんはいつ行っても私を常連のように扱ってくれたし
遥かに若輩者である私に対しても、丁寧な物腰を崩さなかった。
そして、少しずつ私にバーの作法を教えてくれた。
「カウンターはバーの命みたいなものですから。バッグやマフラーを置かれると悲しくなります。カウンターに足を乗せた男を、先輩のバーテンがアイスピックで脅しつけたのを見た事もあります」
「バーで『おすすめ』や『おまかせ』とは絶対言わないで下さい。ちょっと気の強いバーテンだと『全部おすすめです』『おまかせなら、どんなオールドボトルでも良いんですね?』とか言い返されたりします。バーではお客様が主役ですから、バーテンはお客様が心地良い時間を過ごせるようにお手伝いするのが仕事です。その為に必要な情報はきちんと与えてあげて下さい。ノーヒントじゃ切ないです」
「カクテルやボトルの名前なんか知らなくても良いのです。それを知るべきなのは商売人側であって、お客様では無い。でも、バーやバーテンがマニアになってもいけません。あくまでサービスのために知識があるのであって、知識だけになってしまっては何の意味もありません」
「さっき帰った女性、いつも夕方過ぎに来て軽いカクテルを2杯と、ブレンデッドを2杯飲んだ後、最後シングルモルトでキリッと締めて夜の街にまた出て行くんですよね。ああいうの、粋です。バーの使い方をちゃんと知ってる」
「巷さんもここ以外に色々なバーに行ってみて下さい。お酒と一緒で、バーも色々なお店を比べてみて初めて自分に合った場所を見つけれるものです。色々なバーテンがいますから、距離感を楽しんでみて下さい」
幼稚以前の酒飲みだった私は、Tさんのお陰で少しだけお酒に関するマナーや理念を吸収していった。
こういうのって、誰かに教えてもらわないと絶対にわからないと思う。
昔は上司とかの目上の人が教えてたんだろうけど、最近はそういうのも少ないんじゃないだろうか?
私はラッキーだったと思う。
ある時
私のチェックの中に、チャージが無い事に気付いた。
バーのチャージというのは、おしぼりや氷等の最低限担保しなくてはいけない部分に対する料金だと理解している。
特に、私のようにいつも2,3杯しか飲まないような半冷やかしの客からは、チャージを取らないとやってられないだろう。
その事をTさんに言って、チャージを払おうとすると
「巷さんからはまだ頂けません。大人の飲み手になったら頂きます」
と一蹴された。
確かに、その店の客層の中では私は飛び抜けて若かったし
私は飲み手としては未熟もいいところだろう。
が、やはり悔しかった。一人前扱いされていないようで。
あんまり悔しかったので、机上で色々勉強してみたりもしたけれど
おそらくTさんが言いたいのは、そういう事では無いと気付いて止めてしまった。
「たぶんこれは、ある程度年月が解決するしか無いんだろうなぁ」
と割り切って、チャージを払わない日々をそのままに過ごした。
振舞われたウイスキーの最後を、いつも飲んでいるグレンリベット12年で締めて
チェックをお願いした。
ウイスキーの代金が死ぬ程安く記載されているその下に
小さく「charge」と書かれた欄があった。
私がちゃんとした飲み手になったとは、とても思えないので
ウイスキーを飲めるようになった事への、Tさんなりのお祝いなんだと思う。
「すみません、精進します」と言って頭を下げた私を
Tさんがどんな顔をして見ていたかは知らない。
私の行きつけのバーには師匠と父親がいる。
そんな自慢でした。
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