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僕の花婿修行

※破壊的に長いです。



就職して3年。

そろそろ仕事にも慣れ、適当にサボる事も覚えた。
胸が高鳴る程の出来事も無いかわりに心配事や不安も無い日常。
完全に満足しているわけではないけど、自分の身の丈には合っていると感じている。
ちょっとしたイベントをこなしながら、このまま一生を過ごすのだろう。






この前の休日にそんな事を彼女に話したら

「そこに諦観も忸怩たる想いも持たないのが君らしいよね」

と、いつもの物言いで返された。

彼女はこんな理屈っぽい喋り方をする。
はじめの頃は戸惑ったりしたけれど、それが彼女の個性だと認知した後はむしろ好ましく感じている。


「なんか馬鹿にされてるみたいで俺は苦手だけどな。惚れた弱みってやつか?」

友人に冷やかされてムッとした事もあるけど、反論できなかった。
その通りだったからだ。


大学のサークルの新歓コンパで初めて彼女を見た時、その不機嫌な表情が強く印象に残った。
新歓コンパというのはどちらかと言うと先輩達の為のもので、新入生 特に女子は先輩にお酌を強要されたりする。
はじめは一応形式に則ってビールを注いでいた彼女がむっつりと黙り込むまでに、それ程時間が掛からなかった。
大学生の飲酒経験など高が知れている。
彼女が発散する高密度の怒気に周りは誰も気付いていないようだった。
ビールが飲めないので、ウーロンハイのアルコール抜きを騙し騙し啜っていた僕だけはそれを察していた。

悪酔いして傲岸不遜の極みに達してしまった先輩が彼女の横に座るのを見た時、僕の性体験を執拗に尋ねる女性の先輩の話を聞き流しながら「やばい」と思った。
何か起きる予感に、僕の心は臨戦体勢に入った。なぜかはわからない。
執拗に体を密着させようとする先輩を邪険さを隠そうともせず追い払おうとする彼女。


「なんだてめぇ お高く留まりやがって!!」

業を煮やした先輩が遂に声を荒げる。
その場の空気が硬直した。
数秒の静寂。
緊張の維持が限界を迎えそうになった時、グラスの割れる音に皆の注目が集まった。

「すいません。落としてしまいました」

ウーロンハイのハイ抜きを机に落としたのは僕だった。
場の空気が弛緩していくのを触感として感じる。

「もう、しょうがないな~」
「まったく何やってるんだよ」
「お前が大きな声出すから新人君ビビッっちゃったじゃねぇかよ」

さっきの先輩も同級生に宥められ、拳の落ち着け先を見つけたようだ。
それぞれが元いたスペースに戻っていく。

「すいません、トイレで拭いてきます」

シャツとジーンズの大部分を濡らしてしまった僕はそう言って席を立った。
服の処理をする為というより、世話をしたがる先輩が煩わしかったからだ。

トイレのハンドドライヤーでシャツを乾かして廊下に出ると、彼女が壁に背を預けて立っていた。

「お礼を言うべきかな」

そのセリフは僕にというより、正面の観葉植物に投げかけたように見える。

「いらないよ。ああいう空気が苦手だっただけだから」

「何のこと?」と聞き返すのは余りに白々しかったので、正直に答えた。

「君はいいヤツなんだね」
「なんかそれバカにしてない?」
「そんなつもりは無い。客観的事実を述べただけ」

多分僕は怪訝な顔をしていたんだろう。
その表情を読み取って、彼女が自嘲気味に笑った。

「またやってしまったかな・・・どうしてもダメだ。大学に入ったら改めようと思ってたんだけどね」

その言葉だけで、彼女の今までの人間関係が推測できた。
こういう小難しい言い回しはつっけんどうな印象を相手に与える。
他人との距離感の取り方が下手なんだろう。

「じゃあ、どうしたら改められるかこれから相談しない?」

口説き文句だとしたら、最低の部類だろう。
自分から女の子に声を掛けるのは初めてだった。

「うん、相談に乗って貰おうかな」
「じゃあカバンを取ってこようかな。先輩に捕まるとやっかいだな・・・」
「これの事?」

後ろに廻していた手には、僕のカバンが握られていた。
共犯者の笑みを向けると、彼女も笑った。
その時にはもう恋に落ちていたのかもしれない。


その日はファミレスで話し込み、アドレスを交換して別れた。
お互いに他に親しい知り合いのいない男女が、唯一の学友と学友のままいれる例は稀だ。
夏に告白して、秋には彼女が僕の部屋に居る時間が長くなった。
彼女は実家からの通学だったけど、両親はこういう事に寛容なようで、そういう気を使う事は無かった。

少ないが気の合う友人も何人かできた。
部屋に遊びに来る彼らとの交流を通して、彼女も角が取れてきたようだ。
あの理屈っぽい言葉も少しずつ影を潜めてきた。
ただ、僕と二人きりの時は変わらずあの喋り方を使っていた。
僕はそれが嬉しかった。

講義には真面目に出席していたので、僕達は何の問題も無く大学を卒業した。
就職する際にあまり高望みせず、比較的安定した業種を選択した。
将来的に彼女と一緒になる事も、当然考えていた。
彼女は中堅の商社に就職して、キャリアウーマンでは無いが腰掛けレベルでは無い仕事をしている。
このまま結婚すれば、裕福では無いけれど貧しくは無い暮らしができるだろう。
それは保守的な僕が望む生活でもある。

近頃はふたりで結婚の話をする事も増えてきた。
特にお互い気負う事も無く自然にこういう話ができる関係は、理想的だと思う。
「来年には準備開始かな」
二人の間ではそういう共通見解があった。


「そろそろご両親に挨拶しておきたいんだけど」

彼女の作った食事を部屋で食べながら、敢えて突然切り出してみた。

「えっ・・・なんで?」

珍しく取り乱している彼女を少し不審に思いながらも、考えていた事を告げる

「そのうち僕達結婚するだろ?流石に顔も知らないのはまずいよ。それに、もう7年も付き合ってるんだし」

そう、大学1年から付き合っているのに、僕は彼女の両親に会ったことが無いのだ。
彼女の実家が大学・職場からあまり離れていない事を考えると、異常と言っても良いと思う。
今まで何度か挨拶に行く素振りを彼女に見せていたのだが、その度に思いがけず強い口調で拒否されていた。
「ウチの親ヘンだから」と。

「嫌いなの?」
「ううん、そういう訳じゃないんだけど。アクが強いと言うかなんと言うか・・・私の理屈っぽい口調も父親譲りなんだよね」
「それなら問題無いじゃん。僕君のそれ好きだし」
「ありがとう。でも、もう少し時間を貰ってもいい?心の準備ができない・・・」

こんな会話を何度もしている。
だが、今回は退けない。
結婚がある程度見えている状況で挨拶に行かないのは、いくらなんでも不義理過ぎる。
彼女に「しっかりした男」と思われたいという助平心も多少ある。

「なぁ、僕はどんな御両親でも受け入れるし、うまくやって行けるように努力するよ?それとも、僕側の方が不安かな?」
「そ、そんなこと無い!君だったら大丈夫だと思うし、君以外は考えられない」
「だったら、ね? 僕もを育てた人に会いたいし」

かなり卑怯な誘導も駆使した甲斐もあって、結局彼女は折れた。
2週間後に彼女の実家に行く事になった。

当日。
一番気に入っているスーツにネクタイを合わせながら、僕は彼女の親・特に父親についてシミュレートしていた。

(頑固親父みたいな人だったら、怒鳴られたりするのかな・・・)
(いや、理屈っぽいって言ってたから、気難しい大学教授みたいな人なのかも)
(何にせよ、怯んでられない。彼女と一緒にいようと思ったら、避けて通れない道なんだ)

そう自分を奮い立たせて、家を出る。
彼女の実家は僕の家の最寄り駅から5駅程のところにある。
本当に近い。これなら結婚してもすぐ実家に帰れてしまう。

駅から10分程歩き、店舗もまばらになった住宅地に彼女の実家はあった。
「すごい豪邸とかだったらどうしよう」と心配していたんだけど、小さな一戸建てなのでホッとした。
チャイムを鳴らすと、インターホンのやり取りの前に玄関のドアが開いた。

「い、いらっしゃい」

なんとなく照れ臭そうに彼女が出迎えてくれた。
何か一声掛けようとすると、奥から彼女の両親も顔を出した。
第一印象は「でかいな・・・」だった。
彼女が長身なので、何となく予想していたけれど、夫婦で身長が高いと迫力がある。
二人とも痩せているから余計そう見えるんだろう。

「いらっしゃい~ はいってはいって~」

彼女の母親(もう義母と呼ぶ)に促されて、靴を脱ぐ。
なるほど、確かにこの間延びした話し方は彼女とは違う。
もう60近いはずなのに少女の愛嬌を感じる大きな瞳が印象的だ。
服も20代の女の子が着ていても違和感の無いデザイン。
若い感覚を持っているのが見て取れる。

「迎えに行かなくて申し訳なかったね。こういうのは家で待ってる方が風情があると思って」

義父がニコニコしながらリアクションに困るコメントをした。
禿げあがった頭と猫背が年齢を感じさせる。
考えていたどんな父親像とも違う、「普通のくたびれたオジサン」がそこにいた。
目が細く丸顔なので、いつも笑っているような顔をしている。
時々見える瞳は、彼女のそれとよく似ていた。
この人は間違いなく彼女の父親だ。

リビングには既に酒宴の準備が整っていた。
塩と油をふんだんに使った料理をつまみながら、自己紹介的な話をし、彼女の子供の頃の珍プレイ集に耳を傾ける。
その間両親は驚異的なスピードでビールを空けていた。
昼間だというのにこの飲みっぷり・・・
内心ドン引きしながらも、もちろん表情に出す事は無かった。

義父の話し方は、なるほど、彼女によく似ている。
理屈っぽいと言うより回りくどい感じ。
話しながら色々考えすぎて、言葉でまとめられないようだ。
僕は彼女で慣れているので、特に問題なく会話は弾んだ。

(なんだ、全然普通じゃないか。アイツの取り越し苦労だな)

彼女があまりに親に会わせるのを躊躇っていたので、相当心の準備をしてきたのに肩透かしを喰らった気分だった。
この7年なんとなく不安だった事が氷解し、僕は心地よい安堵を味わった。

日が傾いて来て、腹も満たされた頃。
義母とふたりで食器を洗っている彼女を尻目に、義父とアルバムを眺めていた。
赤ん坊の頃から色白の彼女は、今とはまた違った可愛らしさで微笑んでいる。
(僕達の子供もこんな風なのかなぁ)
ほろ酔いの中で気の早い想像をしていると、不意に義父に声を掛けられる。

「ところで、今度の日曜日時間あるかな?できれば付き合って欲しいんだけど」

唐突な申し出に少し構えてしまったけれど、この状況で断るのは難しい。

「ええ、大丈夫ですよ?」
「本当?無理はしないでね。じゃあ新宿に3時に待ち合わせしてもいいかな?行きたい所があるんだよね」

どこに行くかを訊ねるのはなんとなく憚られたので、了解の意のみを伝えた。

「あ、それから。この事はあのふたりには内緒だよ?」

これは何となく予想していたので、すぐに首肯する。
おそらく、
「娘と一緒になるヤツと、男二人で酒を飲みたい」
みたいなものだと高をくくっていたのだ。

彼女が戻ってきてからはこの話題をおくびにも出さず、談笑に花を咲かせた。

「またきてねー」

酔っ払って幼児退行した義母に見送られ、家路に着く。
やるべき事を終えた達成感と安心感を感じて、彼女との未来を明るいものに感じる事ができた。
その時はその気持ちで満たされていた。
その時は。


日曜日。

新宿駅の南口で時間を潰し、義父の到着を待っていた。
3時5分前に待ち合わせ場所に行ったが、まだ来ていないようだ。
(あんまり時間前に来る人じゃないのかな)
すると、3時ちょうど、改札から長身の痩せ男が姿を現した。

「ごめん、待たせたかな?」
「いえ、時間ちょうどですよ」
「そう?よかった。じゃあ早速行こうか」

まっすぐに歓楽街に向かって歩く義父を、慌てて追いかけた。

(どの辺の飲み屋行くのかな?この歳の人だから、秘密のバーとか?)

そんな僕の思索は、見事に裏切られる事になる。


「え~と、ここは・・・」
「うん、雀荘。麻雀打つところ」

閑散とした店内に、牌を打ち付ける音が響いている。
客の要求に店員らしき人達が急いで応じている。
全自動卓を見るのは初めてだった。

「ここで、俺と麻雀を打って欲しいんだ」

そう言えばこの前「麻雀打てる?」と聞かれていた。
大学の友人の家で時々遊びでやっていたので、その事を話したはずだ。
それはこの為のリサーチだったのか。

「君が負けたら私が持つから、お金の事は気にしなくていいよ」
「い、いえ。そういうわけにはいきませんよ。ちゃんと自分のお金で遊びます」
「ふーん。『遊ぶ』ね」

・・・なんだ?

この店に入ってから、義父の態度が冷たくなっているような気がする。
何か気に障る事言ったのかな・・・
店員にルール説明を受けている間、義父はどこも見ていないようにただ煙草を吸っていた。

仲間と麻雀した時は遊びだったので、高くても紙幣は動かない程度のお金しか賭けていなかった。
レートやチップの説明を聞きわからないながらもざっと計算すると、負けると大きな紙幣が何枚か飛ぶ事になりそうだ。
僕だって懐に余裕があるわけでは無い。
彼女との結婚資金だってまだ完全に貯まってはいないのだ。
負けたくない。と、いうより、お金を失いたくなかった。

義父と共に席に案内され、向かい合わせに座る。
ボタンを押すと、牌が上がってきた。
苦労しながらそれを立てる僕を、義父は表情の無い目で見つめている。

ゲームがはじまった。
そして驚いた。

義父の動作はその卓の誰よりも速く、一定のリズムで澱みなく右腕が動く。
別に牌を強く打っている訳ではないのに、殺気すら感じる凄みがあった。
それが僕に向けられている事は、牌の扱いに四苦八苦している僕にもわかった。

5局程義父だけが和了し続け、僕の点棒が無くなったので1回目のゲームが終わった。
呆然としながら義父にお金を渡すと、僕の目をまっすぐに見つめながら義父が口を開いた。

「あの子はね。俺達夫婦の全てだった。あの子がいなかったら私達は別れていたかも知れない」
「それに、俺の事を救ってくれた。博打に明け暮れていつも満たされない俺の心を。だから娘であると同時に恩人でもあるんだ」
「大事に育ててきたつもりだ。私が一緒に居過ぎたせいで、口調が移ってしまって可哀想だった」
「この歳まで無事に育ってくれて、本当に嬉しい。君みたいな良い旦那さん候補もいて、何も言う事は無い」
「結婚を許さないとは言わない。結局それは本人同士の問題だし、俺が何を言ってもしたければするだろう」
「でもね、あの子の夫になる人間が麻雀弱いのだけは我慢できないんだ」
「だから今日付き合って貰った。『なんで麻雀?』と思うだろうけど、俺にとって麻雀とはそういうものなんだ」
「正直すまないと思っている。麻雀なんてできない方がまっとうな人間かもしれない」
「でも、俺はこの価値観でしか生きられないんだ」
「さぁ、2回戦目だ」

そこまで一気にまくし立て、義父はボタンを押した。
これはただのゲームではない。
義父という男が僕という男を試すという一種の儀式なのだ。
本気で麻雀をしなければいけない。

そうは言っても、麻雀などちゃんと打った事はないのだ。
経験とノウハウの差は歴然としていた。
6回戦目が終わった時点で、僕の財布には現金は残っていなかった。
義父が僕の目の前に紙幣の束を投げると、寂しそうにこう続けた。

「さっきはああ言ったけど、『麻雀弱いから結婚許さん』とか有り得ないから」
「ただ、少し寂しい。それだけだ」
「こんな騙まし討ちみたいな事してすまない。娘を幸せにしてやって下さい」

先に帰るね、と言い残して義父が去った後も、僕は席から立ち上がる事もお金をしまう事もできなかった。

店員に促され店の外に出ると、外はすっかり盛り場の様相だった。
酔っ払い達の間を縫って、混乱した頭のままフラフラと駅へと向かう。
家に着き、ベッドに身を投げ出しても、さっきの義父の言葉が頭から離れなかった。

(娘であると同時に恩人でもあるんだ)
(あの子の夫になる人間が麻雀弱いのだけは我慢できないんだ)
(俺にとって麻雀とはそういうものなんだ)
(ただ、少し寂しい。それだけだ)
(娘を幸せにしてやって下さい)

いきなりロクに打てもしない麻雀をやらされ、言いたい事を言われた憤りが冷めてくると、義父の想いを鑑みる余裕が出てきた。
あの人は間違いなく彼女を愛してる。ひょっとすると僕よりも深く。
それを攫っていく男が現れ、さぞや複雑な心境だっただろう。
だが、現実として受け入れようとしていた。
でも、彼の中で譲れないものが最後に出てきた。
それが麻雀だった。

(何が麻雀だバカらしい。あんなのが上手くて何になるんだ)
(大体、博打を打つ連中なんか皆ろくでなしだ)
(そんな事で人の器量なんか計れるもんか)

でも・・・

(麻雀をしてるお義父さん、ちょっと格好よかったな)
(本当に真剣だった。僕があんなに打ち込めるものはあるだろうか?)
(いや、ある。彼女の事だ。それだけは譲れない)

そういえば

「なぁ、僕はどんな御両親でも受け入れるし、うまくやって行けるように努力するよ?」

(そうだ、僕はそう言ったんだった)
(今の僕のやっている事は「受け入れる」事なのか?)
(お義父さんに寂しい想いをさせていていいのか?)


気が付くと、家を飛び出していた。
激情に突き動かされ、彼女の家に向かって走る。
頭の中の整理なんて出来ていない。
だけど。

「どうしたの?こんな時間に。それにすごい汗」
「ごめん、お義父さんいるかな?」
「じゃあ、上がって行ったら?」
「いや、ここでいい」

戸惑いながらも2階の奥に消えた彼女は、義父を伴って戻ってきた。

「お義父さん! ・・・どうしたんですか?その顔」
「いや~。今日君を雀荘に連れて行ったのが妻にバレて、ヤキ入れられちゃった」

義父の顔はボコボコだ。
一瞬将来の我が身を案じたが、今はそれどころじゃない。

「コレをお返しにきました」

雀荘で僕が負けた分の紙幣を差し出した。

「あぁ、それは受け取れないよ。初心者の君を半ば騙して連れて行ったんだから。ホントごめんね」
「じゃあ、初心者じゃなかったらどうですか?」
「え?」
「私が麻雀強くなったら受け取ってくれますか?」
「君・・・」
「条件を教えて下さい。お義父さんが『強くなった』と認めてくれる条件を。僕は必ずそれを達成して見せます」

しばらくお互い無言で見つめあう。
義父の口の端が、微笑みの形に歪んだ。

「君はいいやつなんだね」

それはいつかの彼女のセリフだった。


「いいだろう。君が強くなったらその金を受け取ろう」
「条件は、2つ」
「まずリアル麻雀。私と私が揃えたメンツ相手に、20ゲームで総合ポイントのトップを取って貰う」
「もう一つはネット麻雀。君は天鳳を知ってるか?」

その名前には聞き覚えがあった。
確か、同じゼミで天鳳をやり過ぎて退学した奴がいたはずだ。
頷く前に義父が続けた

「天鳳でレートと段位で私の最高記録と同じ水準になる事。それが条件だ」
「わかりました。時間はどれくらい頂けますか?」
「いくらでも。別に死ぬまででも構わない。ちなみに、俺のID名は『巷の打ち手』だ」
「彼女が行き遅れない程度に収めます」

微笑を交わし、挨拶もせず玄関に背を向けた。
彼女はすっかり混乱している。
帰り道、遠くで義父の絶叫が聴こえたような気がした。

その日から、僕の麻雀修行が始まった。


リアル・ネットの両方の練習をする必要があるが、今の僕の実力で雀荘に行ったらお金がいくらあっても足りない。
ネットを先に打ち込んで、ある程度打てるようになってから雀荘に行く事にした。

まず、天鳳における義父の成績を調べる事からはじめた。
その人の最高記録はランキングサイトで見れるらしいので、早速検索してみた。

巷の打ち手の検索結果
四人打ち
現在 六段 R1967
最高 八段 R2144

つまり、八段R2100程度が目標となる。
それがどういう事なのか、いまいちピンとこなかった。

それにしても・・・
「巷の打ち手」の通算ゲーム数が50000ゲームを超えている。
天鳳ができたのが今から30年程前だから、できた当時から打ったとしても年間2000ゲーム弱は打たないといけない。
ここまでのヘビーユーザーだったとは。

また、「天鳳雑スレwiki」では打ち手個々の説明が見れたので、そこでも調べてみた。


巷の打ち手

天鳳設立当時から現代まで打ち続けている最古参組のひとり。
雑スレには滅多に登場しないが、書き込む度に特定され袋叩きにあっている。

雀風は「その日の気分で適当打ち」
オリたり攻めたり、読んだり読まなかったりがゲームによってコロコロ変わる。

最近は歳のせいか東風についていけないようで、東南メインで打っている。

2017年6月 八段達成



これもなんだかよくわからない。
まぁとにかく始めてみよう。
IDを取得し、ゲームスタート。

150戦程打って、初段に上がる事ができた。
つまり八段になるには1200戦くらい打たないといけないのか・・・
先が長くてクラクラする。

その後上級卓で打つが、まったく勝てない。
320戦で二段になった時には、全ての順位をほぼ均等に取っていた。

どうすれば良いのだろう?

困った末に、本を読む事にした。
主に読んだのは以下の2冊だ

「科学した天鳳~データ解析による最適手順~」 とつげき東北 著
「最速ドンジャラ!―スピード最高―」 福地誠 著

前者で基本的な押し引きの概念を学んで、後者でスピードの考え方を覚えた。
麻雀は僕が思っていたよりも、ずっとオリが多いゲームだったらしい。
また、他家よりも先にテンパイする事はかなり重要みたいだ。

これを踏まえて打ったら、和了率と放銃率が改善され、四段になる事ができた。
だが、五段になったあたりでさっぱりポイントが増えなくなった。
特上卓に来ると皆が同じ様にまっすぐにテンパイを目指すし、オリもちゃんとしている。
他家と差別化をする必要があるのだが、どうすれば良いかわからない。
行き詰った僕は、一旦天鳳を止めて、リアルの練習に移る事にした。

雀荘に行き、牌を握る。
以前と違ってどの牌を切れば良いかわからくなることはあまり無くなったが、
いかんせん牌を扱い慣れていないので、そこに時間が取られてしまう。
ネットと違って「鳴きアイコン」も出ないし、卓全体を見渡すのが難しい。
僕は大敗した。

その日の帰り道、麻雀牌を購入し、自宅でも牌を触るようにする事にした。

マンションに戻ると、部屋の前に彼女がいた

「久しぶり」
「うん」
「どう?麻雀のお勉強」
「なかなか上手くいかなくて、苦戦してる。でも頑張るから」
「お父さんとの約束なんか反故にしてもいいのに・・・。でもありがとう。お父さんの気持ちに応えてくれて」
「どうせなら、完全に認めて貰った上で結婚したいからね。もう少し待ってて?」

モチベーションが上がった。
男なんて単純なものだ。

家ではひたすら打牌の練習をした。
天鳳は打たずに、天鳳ブログを巡回して強い人の考え方を吸収するように努めた。

雀荘に通うようになってから10日程が経過した。
牌捌きはゲーム進行に問題が無い程度には上達し、鳴き等もネットと同じ感覚で出来るようになってきた。
そうすると今まで余裕が無くて見えなかったものが見えてきた。

「今の少考はトイツ落としかな」
「一番端から三萬を抜いたという事は、一萬は通りそうだな」
「僕が切った8索をまるで見て無いな・・・ 索子は大通しか?」

もちろん、こういう予想が外れる事もよくあった。
でも、こういう事を考えながら場を見ていると、だんだんどの牌がどこにあるかわかるような気がしてくる。
最後の3日間を全連帯で終え、とりあえずまた天鳳に戻る事にした。

天鳳に戻ってからも、雀荘でのあの感覚が残っていた。
ちょっとしたラグから対戦者の迷いや思考が滲んでくる気がする。
雀荘で実際の顔が見える相手と打った事で、ネットでも以前より場が立体的に見えるようになった。
六段にもなり、あと一息だ。

ところが、ここでもまた壁にぶつかった。
降段する訳ではないのだが、どうしても昇段する程ポイントが溜まらない。
途方に暮れている時、僕と同じ様に伸び悩んでいる人のブログに、その人の牌譜解析が貼られていた。
コメント欄を見ると、高段者の人が色々アドバイスしている。
数日後、鬼打ちしたその人の成績は劇的に改善され、七段になっていた。
これだ! と思った。

すぐさま課金し、500ゲーム程打つ。
そして、その解析結果を強い人と見比べる。

自分に何が足りないのか?
いつオリるべきなのか?
もっとリーチした方が良いのか?

ひとつひとつの項目をチェックし、打ち方にフィードバックしていく。
そしてまた打ち、解析。
何度も何度も繰り返し、2500ゲーム程打ってやっと七段になれた。

それからはひたすら自分との戦いだ。
いかに精度の高い打牌を正確に続けられるか?
どれだけ我慢できるか?
修行僧みたいなものだ。

ポイントが全然増えなくても、もう迷わない。
解析から得た理想的な数字に向かって打ちまくる。

それと平行して、雀荘でも麻雀も打ち込んだ。
天鳳で得た精密性に実戦での感覚を上乗せして、勝ちを重ねていった。
その雀荘でも、勝ち組の部類の仲間入りを果たす事ができた。

そして遂に八段R2150を達成。
振り向けば、8000ゲーム打っていた。
義父との約束から、1年半の月日が流れていた。

「もしもし?お義父さんですか? 天鳳、達成しましたよ」
「ああ、ランキングで見たよ。おめでとう」
「実戦の方も修行してます。対戦して頂いてもよろしいでしょうか?」
「うん。今や天鳳では俺よりも上だけど、リアルでは負けないよ」
「望むところです。では、今月末ではいかがでしょう?」
「いいよ。面子揃えとくから」

最初は彼女と義父の為にはじめた麻雀だったけど、僕はもうすっかりこのゲームが好きになっていた。
自分で考え、挑む。
僕の人生ではじめての挑戦は、充実した日々を与えてくれた。
今は義父を一人の打ち手として尊敬し、超えるべき相手として認識している。

僕は麻雀打ちになった。



1年半前、義父に完敗した雀荘の同じ席に、義父は座っていた。

「待ってたよ。ずっと待っていた」
「遅くなってすいません」
「娘の旦那としての君を待っていたはずなのに。なぁ、なぜかな?今は麻雀打ちとして喜んでるんだ」
「私だって一人の麻雀打ちです。卓を囲んでいる間は他の事は何も関係ありません」
「ふ、どうやら本当に強くなったようだね。はじめようか」
「はい!」

その日、ふたりは凄まじい闘牌を繰り広げ
熱気は卓を焦がさんばかりだった
両者の目は恍惚の光を湛え
打速は視覚を超えた

その日の勝負はどうだったのかって?
それは牌だけが知っている



~~  Fin  ~~







え~と
思いついたままに書いてみたのですが
ひでぇな、コレw


娘を持った男親は誰しも

「いつ彼氏ができるのかなぁ」
「キスとかしちゃうんだろうか」
「そんで、そのうち貰われていっちゃうんだよなぁ・・・」

とか考えてしまうものだと思います。
私は 娘が生まれた5分後に考えました。バカです。

また、娘を持った男親は誰しも

「お嬢さんを僕に下さい!」⇒「許さん!!」

という様式美に憧れるのではないでしょうか?
別に結婚してよくても、なんとなく一回「許さん」と言ってみたいような気がしますw

今回のお話は、「自分だったらどう対処するだろう?」という妄想のお話です。
なんか出会いの部分とか無駄に凝ったら、訳分からなくなったw



わたしだったら雀荘に連れて行くという事ですね。
これ本当にやったら破談になっちゃいますので、皆さんは真似しないように!

長くてすみませんです。
あと、これ鳳凰卓が出来る前に書いたので、ちょっと微妙かも・・・
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非公開コメント

No title

何なんですかこれは!
前半部分をクソ真面目に読んでしまった僕が、愛に飢えてるみたいじゃないですか(´;ω;`)

No title

「いくらでも。別に死ぬまででも構わない。ちなみに、俺のID名は『巷の打ち手』だ
ここで大爆笑しましたwwwwww
そしておれもてつぬこさんと同様クソ真面目に読んでましたw

No title

「両親は驚異的なスピードでビールを空けていた。」
「義父の顔はボコボコだ。」
爆笑しましたw

No title

「いくらでも。別に死ぬまででも構わない。ちなみに、俺のID名は『巷の打ち手』だ」
ここまでけっこうドキドキしながら読んでたのにwww
たぶん巷さんは、娘さんに押し切られてなにも言えないまま「うん」の2文字で結婚を承諾してしまうタイプだと思いますw

No title

麻雀本はネマタさんと最速くんが将来もっといい本を出してくれているはず!
面白かったですw
30年も麻雀打ち続けるほど麻雀愛にあふれた麻雀打ち『巷の打ち手』をリアルでも見せてください。

No title

このお義父さんとは仲良くなれる気がします。
むしろこんなお義父さん希望するまであるw

「恋愛モノか。(実体験なんかな?)今回は麻雀はないんかな?」と考えながら呼んでたら親父と待ち合わせ?
まさか?
「雀荘」という文字にニヤリとしてしまいました。(やっぱり麻雀サイトだもんな)
後半は「巷の打ち手」の44IDを引き継ぐんだろうか?と予想してましたよ

No title

素晴らしい
その一言です

No title

>てつぬこさん
そちらの事情は存じ上げておりませんw
私の文章なんか、真面目に読むもんじゃないっす(*´ω`*)
>青春さん
そんなに騙したりするつもりも無いんですが
結構そこでネタばらし的になってるみたいですねw
>NOOさん
まぁ、リアルに想像できる状況ですねw
>鯖無さん
そこからドキドキして頂かないと!
むしろ娘は、相談無しで事後報告な気がしますねぇ・・・
私など全スルーでしょう。
>すいぼつさん
もうかなり前の文章なんで、本もあんな感じですw
どうせ死ぬまで打ってますから、嫌でもお目にかかる事でしょう。
>ちくきさん
私だったら嫌だなぁw
あんまりそっちに麻雀を絡めたくないっすねぇ
>フライデー雀士さん
ん?
明らかに恋愛物ですよ。マジで。
あと、麻雀サイトじゃないし、IDも引き継いでませんw
>オラゴンさん
いえ、かなりダメでしょうw

No title

わかります。
似たようなことを私も考えたことがります。
(フリーに連れて行く部分だけですが・・・)
娘が2人いるので、麻雀で性格判断してやろーと思ってます。
実際にするかは微妙です・・・

No title

>たかあきさん
ね、考えますよねw
別に試すとかじゃなくても、娘の夫になる人と一度は囲んでみたいような気はしますです。
プロフィール

巷の打ち手

Author:巷の打ち手
その名の通り、その辺にいる打ち手です。

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