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Optimization

※まとまりが無い上に無駄に長いです。
※そして、もう古いお話です。





UPSに通電したのを確認して
試験警報を流す。
1次側の電源が遮断された事を認識したコントロールパネルが
サーバーへの給電元をバッテリーに切り替える。
切替時間・復旧時間共に問題無し。
すぐに警報を止め、商用電源による給電を再開(本当はずっと給電していたが、信号処理的に復旧する必要がある)
ここでも異常無し。

仮設UPSの設置作業はこれで完了だ。
作業員にOKを出し
配線の付け替え工程を指示する。






相鉄線沿いの駅にあるこの顧客のビルでは、エンドユーザーの個人情報を管理しており
コールセンターも併設している。
その為、一般企業のそれよりもかなりスペックの高いマシンルームが構築されているのだが
この部屋にはちょっとした特徴があった。

いや、少し違うか。
「部屋」では無く、「機器構成」に特徴がある。

普通、ある程度以上のスペックや床面積を備えたマシンルームは
その建設の段階からかなり計画的に設計・運営される。

将来的にどのような機器がどれくらい導入され
どういう電源が必要でどれくらい発熱するのか?

そういった事をはじめから織り込んで
架台の配列、空調機の配置、電源容量及び給電方式を決定する。

だが、このマシンルームはそうなっていない。

元々は一般事務室の一角にあったサーバーを集約しただけの
言ってみれば「サーバー置き場」の規模が済し崩し的に大きくなっただけの部屋なので
一般的なデータセンタを見慣れている私から見て
非常に乱雑でずさんな配置・運営がされているように見えた。

発熱箇所に十分な風量が確保できていない為に
いかにも「急拵えです」という安っぽいダクトが天井下を這っており

絶対に遮断されてはいけないはずのサーバー電源は
普通のOAタップに接続され(しかも、抜け止めすらない)

無計画に装置を増設し続けた結果
メンテナンススペースがほとんど無く
トラブルがあった場合は機器を止めて修理しなければならない。
(そして、通常こういう機器は止められない)

はじめてこの部屋を顧客と共に見た瞬間に
「別のロケーションに新規で集約するべきです絶対」
と思わず口にした。
それくらい、ひどい。


特にUPSは本当に酷くて
機器毎に違うUPSが個別に接続されており
その容量もメーカーもバラバラ。
こんなの他で見た事が無い。

例えば、ある部屋に400KVAの非常用電源が必要だとしよう。
架列が4列あるとして、どのような設計をするか?

「100KVAのUPSを各架列に1台ずつ配置する」

というようなやり方は下の下のだ。
基本的に機器台数というのは少ない方がコストは安く済むし
必要容量ジャストの設計をする事は有り得ない。

私だったら、安全率と機器増設を考えて、300KVA程度のUPSを2台配置する。
500KVAを1台の方が容量的にも価格的にも優れてはいるのだが
1台のみでの設計をするとそれが壊れた場合のフォローが効かないし
メンテナンスがかなり難しくなる。
なので、2台のUPSで二重化しつつ容量的な余裕を持たせる。
こういう重要機器を扱う設計をする場合、バッファが無い考え方はしてはいけない。

ここのUPSの配置方法は
各機器毎に低容量のUPSが1対1で付けられていて
警報は一括転送を行っている。

余りに突っ込み所が多すぎて何が悪いのか説明すると長くなってしまうので
これが如何にダメな状態かを一言で表現しておこう。

「子供の積み木かよ!!」


ある低容量UPSの営業に訪れていた私の目線は
すぐに新規マシンルーム構築に向いた。
事務所に帰った直後に提案概要を作り始め
その日のウチにメールで顧客に送り込んでおいた。
ここまで露骨に仕事になりそうな案件を他に取られるのが怖かったので
とにかく最初に提案してしまおうと考えたのだ。

顧客から前向きな返答が返ってきたので
さっそく本気で提案する準備をはじめたのだが
目の前に大きな問題があった。

対象のマシンルームで扱っている機器は
顧客情報のデータベースをリアルタイムに処理しつつ
ダイレクトコールのオペレーティングを行う機能を司っている。

それは顧客企業の命のようなもので、24時間365日止める訳にはいかない。
だが、これだけの大規模改修を行おうとするとどうしても無停電では難しい。

普通のケースだと電源の二重化がされている為に
一方の給電方式に切替えなが工事をするのだが
この部屋ではそれは不可能だ。

では、どうするか?

私の会社のプランは

「局所的に仮設UPSを付け替えながら電源集約を行い、主幹線を並列化させ擬似的な二重化を行う」

というものだ。

1台のUPSを使い回しながら個別の機器毎に配線工事を行い
大容量のUPSで二重化した主幹に繋ぎ変えていく作業になる。

これならば、購入するUPSはメイン部分のみで済む為にコストは低く抑えられるし
機器個別であればなんとかスケジューリングして工事が行える。
手間は掛かるが、1度こういう工程を行わないと次のステップに進めない。

素人目には無駄な工程と工事費に見えるので
顧客を説得するのにずいぶん苦労したが
最終的には納得して貰い、大規模集約の予備工事としての受注に成功した。

後は実施側に任せるだけだ
営業としての私の仕事はここで完了

・・・の、はずだった。


実施側の課長から携帯に着信があった時
嫌な予感がした。

折衝段階ならともかく、工事に着手した後に現場から営業に掛ける電話というのは
大抵トラブル報告か文句の内容だからだ。
だが、その電話はそのどちらでも無かった。

「巷君さぁ、確か電工持ってたよね?」
「ええ、2種ですけど」

電工とは電気工事士の事だ。
私は高校生の頃に取得していた。

「って事は、工事できるんだよね?」
「・・・どういう意味ですか?」
「あの現場手伝ってくれない?」
「はぁ?私は営業担当者ですよ?そんなの無理に決まってるじゃないですか!」
「もうこっちの稼動が全然無くてさぁ。現場に行けるヤツがいないんだよ~」
「そんなのそっちの問題でしょ?知りませんよ。受けた以上やってもらわないと困ります」

大体、私だってヒマというわけではないし
もしヒマがあったら麻雀か家族サービスに費やす
こんな申し出は問題外だ。

「いや、もう上には話してあるんだけど。一応本人には直接言えって事だから、連絡しただけだから」

まったく動じずに返答してきた相手の言い様に腹が立つより前に
直属の上司の席を睨みつけると
既に上司は部屋の外に逃げるところだった。
それで確信した。
「もう話はとっくに付いていて、後は俺が怒る相手の押し付け合いだったんだな」
と。

私はペーペーにしては命令に背いたりキレたりするという扱いにくい社員なので
上は腫れ物を扱うように接してくる事が多い。
堂々と理不尽な事を押し付けてくるのは、他の部署の人間か部長くらいなものだ。

「わかりました・・・ 現場の引継ぎいつにします?」

逆らっても時間の無駄だと悟ったので
淡々と自分の仕事として進める事にした。

組織に蹂躙されるのを甘受するようになった事で
私も少しは大人になったのだろうか。



そいういうわけで

仮設UPSの設置・切替・切離し作業をなぜか私が行う事になった。
顧客側の業務スケジュールに合わせて工事するので、工事日は不定期だったが
大体月に5日くらいはビルに赴いて工事を行う。
一応責任者なので、試験や確認は全て私が行う。

(現場に出なくなって久しい営業担当者が、こんな重要な工事をやってもいいんだろうか?)

という疑問はあったが
あまり深く考えると危険な気がしたので、いつも見て見ぬ振りをしていた。
大事故というのはこういう事が積み重なって起こるのだと思う。

せめてもの救いは
この工事が成功して、次の構築工程が受注できれば
かなりの受注額が期待できる事だった。
私の受注ノルマの5年分が1案件でフォローできてしまう額だ。

「そうなったら、ガンガン休みを取って旅行とか行ってやる!」

非現実的な楽しい想像で自分を鼓舞しつつ
本来業務では無い仕事に精を出す。
「正しい現実逃避」というのはサラリーマンには必須のスキルなんじゃないだろうか?


その日は工事可能な時間が

8:00~10:00
17:00~20:00

という非常に効率の悪い日で
午前中の工程が終わった後に、どうしようか迷った。

会社に戻って仕事をしても良いのだけれど
移動時間がすごく無駄に思える。
かといって、この駅の周辺にはヒマを潰すような施設は無い。
読んでいた文庫本もちょうど終わってしまっていた。

こんな時、普通の人は結構困るんだろうけど
私は困らない。


「芸は身を助ける」

ってやつだ。


麻雀を打つスキルを「芸」と呼ぶかどうかというのは
議論が必要かもしれないけど




古びたその雀荘のドアは
開ける前からキナ臭い予感を感じさせてくれた。

扉を開けると店内の人間が一斉に私を見た
この一事だけで、常連主体の雀荘である事がわかる。

15坪程の店内に、自動卓が6台。
1台だけがアルティマで、他は見た事も無い程に古いタイプのものだった。

その1台だけのアルティマを老人4人で囲んでいて
1人が後ろ見用のイスで観戦している。もちろんそれも老人。

奥から店長と思しき人物がやって来て

「初めてだよね?」

と声を掛けてきた。
返事をするとルール表を渡されながら

「ウチは普通のルールだから」

と言っただけでまた奥に戻っていった。
えーと、卓状況とか知りたいんスけど・・・

しょうがないので待ち席に座ろうとイスを見ると
汚いソファーの間に、なぜかイームズが1脚だけあった。
(なんで?そぐわないにも程があるだろ・・・)
という疑問を感じつつ
何となくそれに腰を下ろしてルール表に目を落とした。

まず驚いたのがレート。
看板には1-1-3と表示しているのに、表には0.5-5-10と書いてある。
看板と実際が違う事は時々あるのだが、看板より安いのは初めて見た。

あとはチョンボの基準が凄くて、
「基本的にノーペナ。迷った場合は店員に聞け」
と書いてある。
つまり縛りが無いって事になるんじゃないか?コレ。

極めつけに特殊ルール。
「半荘中に1回だけ1飜アップのリーチが掛けられる」
という明らかに「普通のルール」とは違うもの。

起親マークを入れるところに札が入っていて
そのリーチを掛ける時はその札を手牌の右に置き
局が終わったら裏返しにして札を戻す。

そこまで読んで、打っている卓に目を向ける。

競馬のラジオを聴きながら打っている気難しそうなお爺ちゃん
自前の漬物をつまみながらケタケタ笑い牌を零している昆虫みたいな老婆
物凄く苦しそうにタバコを吸って、ゼーゼー言っている半病人みたいな老人

うん、わかった。
この店はヤバい。

店長のルール説明だけで決まったようなものだったが
麻雀を打っている客を見て流石に確信した。

たぶん、ちゃんとした麻雀(ってなんだろ?)を打ちたくて雀荘に行く人にとっては
最悪の店だろう。
どう考えても熱い勝負はできなそうだ。

でも、私はこういう店も嫌いじゃない。
時間ができた時に行く先々の知らない雀荘に入るのは
こういう場末の店の空気を吸う為でもある。

ある地域、あるメンツとしか打てない麻雀がある。
それが自分の理念と噛み合わなかったとしても
唾棄したり憤ったりするのはもったいない。
せっかくだから楽しめば良いと思っている。
そういう意味で、このお店は「当たり」である。
(ハズレってのはなかなか無いけど)

待ち席は老婆の席の後ろだったので
ずっと手筋を眺めていたのだが
とにかくひどかった。

相対的な押し引きとか、手数が少ないとか、そういうレベルじゃない。
和了る方法を知らないとしか思えない段階だった。
確か、こういう牌姿があった

一萬一萬一萬二萬三萬四萬五萬六筒六筒七筒八筒七索八索  ツモ九索


聴牌だ。
フラットな局面だったから、リーチを打つべきだ。
普通は六筒切りの4面張だろう。
よっぽど筒子が良くても、六筒切りで良いと思う。

ここで長考に入る。
それも半端な長考じゃない。
下手すると将棋以上に長い時間考えていたかもしれない。

永遠とも思えた待ち時間の後に老婆が打ったのは
なんと八筒だった。


一萬一萬一萬二萬三萬四萬五萬六筒六筒七筒七索八索九索


まさかの聴牌崩し。

(すげー!いま凄い物を見た!!)

と心中で興奮しまくっていると、次のツモが六萬


一萬一萬一萬二萬三萬四萬五萬六筒六筒七筒七索八索九索  ツモ六萬



(一発ツモだったな・・・ こりゃ、また長考かな?)
と思って見ていると
ノータイム七筒切りリーチ!

なんでこっちはノータイムなんだよ!!

もう私はお祭り状態。
こんな麻雀なかなか見れないッスよ!
そして、一発ツモは一萬だった。


一萬一萬一萬二萬三萬四萬五萬六萬六筒六筒七索八索九索  一発ツモ一萬


恐るべき和了手順である。
ところが、老婆は一萬をこっちに見せて

「コレはカン?」

とか聞いてきた。
萌えた。


そんな麻雀を1時間掛けて堪能した後
老婆が抜けたのでそこに座る事になった。
あのままずっと見ていても良かったのだが・・・

挨拶してみるが当然のように誰も返事をしない
それどころか、舌打ちをされた。
う~ん、大先輩のサロンを汚してしまったからご立腹なんだろうか?
なんか悪いことをしたような気分になった。

ちょうど東1で対面の親がリーチを掛けたタイミングで
店のドアが開いた。
新しい客が来たのかと思いきや 、店長と何やら話をしている。
その内容を聞くと、どうやら従業員のようだ。

このお店にメンバーがいるとは思わなかったので意表を突かれてたのだが
その姿を見て、もう一度驚いた。

日に焼けた肌に黒々とした短髪。
細いが筋肉で締った体に、飾り気の無いジーンズにTシャツ。
二十歳くらいだろうか?表情にはまだ幼さが残っている。

どこからどう見てもスポーツマンな好青年にしか見えない。
こういう場末の雀荘のメンバーと言えば、煮ても焼いても食えないような中高年のオッサンが定番なだけに
軽いカルチャーショックを受けた。

リーチにベタオリしながら何となく彼の姿を目で追っていると
使っていない卓に座って牌を触り出したようなので
「卓掃だな」と思い、また卓上に目を落としベタオリしていると。
続けざまに打牌する音が聞こえてきた。

どうやら打牌練習をしているようだ。
(へぇ、熱心なんだな~)
と感心した。

卓の配置上牌を打っている姿は見えないけど
音の間隔の一定さと乾き具合から
かなり熟練の捌きをしているのが窺えた。

(う~ん、強そうだ。打ってみたい)

この店に入ってからはじめてそういう戦闘的な想いを抱いた。
サプライズ多すぎだろ、この店。

最初の半荘は対面が妙にツイていて
東発で4本場まで積み、50000点近く持っているダントツになった。
全て脇の放銃で進んでいたので私は原点持ちの2着目だったが
この打速でひたすらベタオリするのは、正直言って面白くなかった。

迎えた5本場で高目九筒がピンフ三色ドラ1の聴牌が入ったのだが
残り6000点の上家が九筒を切ったので見逃してみた。
一見の店の1戦目東1局で見逃すのは初めてだった。

普段なら和了したかもしれない。
このゲームのプラスを確定させてさっさと次のゲームに行くのが効率の良い凌ぎの気もする。
だけど、見逃した。今考えてもなんでだかよくわからない。
ダラダラと打っていたかったのかもしれない。

3巡後、トップ目が九筒をツモ切って牌を倒した。
見逃しには気付いていないようだ。(一応手出しも入れてたし)
対面が憮然として点棒を投げてきた。
なんかごめん。

そのままダラダラと局は進み
1時間掛けて東場が終了すると
対面が「これで帰ろうかなぁ」とか言い出したので
「さっきの彼と打つチャンスだ!」と思った私は
打速をいきなり5倍くらいに上げた。
下家は私がいつ切ったのか認識していないようだった。

こういう場では、周りの空気を読んでそれなりのペースで打つべきだと思っているのだけど
自分の都合を優先してスピードを上げたのだ。
自分勝手で迷惑な野郎である。

南1、南2と安手で和了し
南3の親番でドラ単のチートイをツモると脇が箱を割った。
結果的に逆転トップだが、そんなのはどうでも良い。

果たして、対面が席を立ち
そこに彼が座った。

すでに時計が3時前を指していたのでラス半を掛け
気を引き締めて卓上を見た。

(さて、どんな麻雀になる?)

私の起親からはじまったゲームは
私の棒攻めで幕を開けた。

さっきから和了し続けてたのが良かったのか知らないけど
簡単で早い手が入り続けていたので
東場は常に先手を取って進める事ができた。
彼だけがちゃんとオリにまわり
脇は無謀な牌を平気で切ってくるので
ツモる前に出和了してしまう。
なんか、どうやっても勝てそうな展開だった。

それにしても、彼の打牌動作は凄い。
シャープで滑らかで力強く、リズミカルだ。
卓上で腕が踊っているようなイメージ。
麻雀プロとかのの形とは少し違う、躍動感のあるスタイルだ。
それを眺めているだけで退屈しないで済んだ。

(この店は収穫がたくさんあったなぁ)

とか勝手に思いながら迎えた南1局の親番
生牌の西を切ると、二筒を両面で鳴いた彼から声が掛かる


二萬三萬四萬二索三索四索北北西西  二筒横三筒四筒  ロン西  ドラ四筒


彼の最終手出しは五萬だったから
おそらく鳴いた時点では三色は確定していなかったのだろう
明らかに私の親を落としに来た仕掛けだ。
彼はトップを目指して、私と勝負する気なのだ。

それって当たり前の事なんだろうけど
この店に入ってからは頭から抜けていた。

(そうだよな。そうじゃなきゃ麻雀じゃないもんな)

3900を五千点棒で払うのと同時に
1100点が返って来た。
今まで一番早い点棒のやり取りだった。

点差はこれでも16000以上
絶対に逃げ切ってやる。

南2局
9巡目にこの形。


五萬五萬五萬五筒六筒七筒八筒九筒五索赤七索八索西北  ツモ八萬


もう中盤が過ぎて終盤に差し掛かろうとしている。
索子の赤を使い切れなければオリるし
どこかから攻撃が入ったら切る為に場に枯れている西北を持った。
そこに暗刻筋の八萬ツモ。

場には六萬が4枚、七萬八萬が2枚、九萬が1枚切れている。
まぁ、おそらく当たらないだろう。
ツモ切っても問題無い。

だが、私は北を切っていた。

次巡ツモ九索で打西
ツモ九萬でこの形


五萬五萬五萬八萬五筒六筒七筒八筒九筒五索赤七索八索九索  ツモ九萬


ここで、打五索赤

もう萬子で和了を拾うつもりだ。
四筒七筒を引いたら五萬
筒子で頭ができたら・・・

次巡ツモ八筒でノータイム九筒切りリーチ


五萬五萬五萬八萬九萬五筒六筒七筒八筒八筒七索八索九索


このペン七萬で和了り切る!

ここまでほとんど頭を使っていない。
手が勝手に動くままに牌を横に曲げていた。
正しいかどうかなんて知らない。
たまにはこういう麻雀も打たなきゃね。

すぐに対面の彼もリーチを打ち
それに親も割って入って来た。

終局直前、安全牌が無いらしい上家が
長考の末に七萬を打ち出した。

掛かった声は二つだった


五萬五萬五萬八萬九萬五筒六筒七筒八筒八筒七索八索九索  ロン七萬


三萬三萬四萬四萬七萬二筒二筒四筒四筒九索九索中中  ロン七萬


チートイは彼の和了だ。
場に出易い待ちでのダブロン。

なんだか笑ってしまった。


「それは止めたんですか?」

思わず聞いてしまった。

「まさか。鉄板だと思ったから受けただけですよ」

リー棒を3本集めながら彼が答える。

(あぁ、面白いな)

麻雀が楽しいと思う瞬間はたくさんあるけど
こういう状況にはなかなか出会えない。
心からこの店に入った事が正解だと思えた。


ところが、続く南3局
下家の早い隠れドラ役牌暗刻に
彼が4巡目で飛び込み
私との点差が2万点近くに開いてしまった。

残念だった。
最後までトップ争いをしたかったのだが・・・


オーラスがはじまった。

私の手牌はタンヤオで軽く和了できそうな手で
序盤でイーシャンテンになったので、すぐに終局できそうだった。

(さて、現場に早めに戻って作業確認しようかな)

対局中でありながらそんな事を考えはじめてしまったその時

「リーチ」

彼が裂帛の気合でリーチを掛け
手元の札を右手に置いた。

そうだった
そういうルールがあったんだった
今まで誰も使ってなかったから忘れてた。

倍ツモで変わる点差だ
チートイのドラ・赤入りをこのリーチでツモれば良いし
タンピンのドラ2だったら裏1で条件を満たす。
油断できるような状況では無いのだ。

(緩んでるな~、おれ。ありがたいな)

心中で彼に礼を言う。
シビアな勝負をしなくなっていた自分が
いかにヌルい打ち手になっていたかを思い知らされた。

このルールに限らず、麻雀において気を抜いて良い局面など一つも無い。
ダブル役満直撃で変わらない点差があろうとも
そこで適当に打ってしまえば、次の勝利は遠ざかる。
誰が見ていなくても、たった1打の緩手は自分に刻まれて
どこかで必ずその芽を出すのだ。
そういう運命論的なオカルトを私は信じている。

だからいつだって
辛く辛くシビアに打ってきたつもりだった。

咎めてくれる相手がいるから
こうやって時々原点に帰れる。
やっぱり麻雀は面白い。


彼のリーチに無筋を2枚通し
両面を鳴いて聴牌を取った。

戦略的に正しいとはとても思えないけど
このリーチは前に出て捌かなければいけない気がした。

私の和了牌である五萬を切った彼が
本当に、本当に悔しそうな顔をしていたのが印象的だった。

彼は私よりもずっと真摯に麻雀に取り組んでいる
そういう連中に勝ちたかったら
自分もそれ以上に強くあろうとしなければならない

そんな当然の事を思い出した。


退店に彼が付いて来た

「また来て下さい。次は負けません」

さっぱりとした笑顔で言われたので
「いや、もう来ないと思う」とは言い出せずに
曖昧な笑顔で答えておいた。

ふと、思いついた事があって聞いてみた。

「なぜこのお店で働いているんですか?少し足を伸ばせば横浜だって川崎だってある。失礼だけど、あなたの腕前はこのお店には勿体無いと思いますよ」

不躾かつ大きなお世話だと思ったけど
言わずにはいられなかった。
もっと都会。できれば東京に出て腕を磨くべきだ。
麻雀を仕事にするつもりは無いとしても、だ。

「う~ん。あのお店の常連さん達が好きなんですよね。可愛がって貰ってるし」

確かに、私には頑なに口を開かなかった老人達も
彼には心を開いているように思えた。
メンバーをバカにしているようなありがちな雰囲気も無かったし
本当に好かれているように見えた。

「でも、麻雀的に物足りなく無いの?」

しつこく食い下がってみた。
自分がこんなにムキになっているが不思議だった。
普段は何にでも無気力で無関心なのに
麻雀が絡むと突然こうなってしまう。
病気といはこういうものだ。

「どんな相手と打っても麻雀は麻雀ですよ。それに」

彼は店内を一瞥した後

「どんな相手とでも楽しく打てるのが良いと思いませんか?」

それは私がいつも思っていた事なので
ほとんど反射的に頷いてしまっていた。

彼はまたにっこりと笑った後
軽く頭を下げて店に戻っていった。




それから半年程経って

UPSの仮設工程は全て完了した。
整然と整理された配線を眺めるのは気持ちが良い。
全てが最適な位置に最適な収まりでそこにある。

営業担当者でありながら、技術者としての喜びを感じる矛盾にはこの際目を瞑る。

やはり私はエンジニアの方が向いているのかもしれない。

顧客には次の大規模マシンルーム移転の内示を貰っている。
色々あったけど、全体的には上手くいった。
これで楽ができる。


最後の工事の引渡しを終えて
駅に引き返す途中であの雀荘事を思い出した。

あれから一度も顔を出していないけど
彼は元気でやっているだろうか?

(もう本当に来る事も無いだろうしな・・・)

そう思ったら、足が雀荘に向いていた。

店には店長と待ち席でテレビを見ている老人がいるだけで
一卓も立っていなかった。
彼の姿は見えない。

「以前いた若い彼は今日はいないんですか?」

店長に聞いてみる。
私の顔を覚えていないらしい店長は軽く驚きながら返事をした

「あいつは先月辞めたよ。東京に引っ越すんだってさ」

そうか、東京か。
安心したような少し寂しいような微妙な気持ちになる。

東京で真剣に麻雀に打ち込むのだろうか?
それとも、もう麻雀など辞めて普通の仕事に就いたりしたのだろうか?

(どちらにせよ、あのフラットな笑顔のままがんばってくれてると良いな)

一度卓を囲んだだけの相手の行く末を祈るなんて、ちょっとおかしいような気もするけど
多分麻雀に関わる時の私はちょっとおかしいから、これで良いのだ。

店長に礼を言いながら店を出ようとした時
待ち席にあのイームズチェアが無い事に気が付いた。
もう一度店長に訊いてみる

「あぁ、あれはアイツのイスだったんだよ。辞める時に持ってった」

そういう事か
道理で違和感があったわけだ。

彼がこの店で異彩を放っていたように
あのイスもまた古いソファーの間で肩身が狭そうだった。

彼もあのイスも
この店を離れることで
もっと自分に合った居場所を見つけられれば良い。


建築家でありデザイナーでもあったチャールズ・イームズは

「万人にグッドデザインを届ける」

という理念を持ってデザインを行い
その結実として、生産性と再現性に優れ安価なイームズチェアが誕生した。


彼がそういう事を知ってあのイスを使っていたのかはわからないけど
「どんな相手とでも楽しく打てるのが良い」
と語った彼の考え方との相似を考えるのは、裏読みのし過ぎだろうか?


マシンルームの電源系と違って
人間の状態や麻雀のあり方に「最適」を見出すのは難しいけど
ちょっとでもそれに近づこうという気持ちは尊いものだと思う。

願わくば
今の自分が昨日よりもそうあって欲しいと
なぜか他人事のように思ったり思わなかったり









(いや、まとまりが無いのはいつもの事なんだけど、いくらなんでもコレは無くね?)
(いや~、創作物の続きが書けなくてさ。ホラ「正しい現実逃避」?)
(現実に現実逃避するなよ・・・ どうしょうもねぇな)
(誰にも迷惑を掛けてないから まぁいいじゃん。)
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No title

改めて、エピソードてんこ盛りのお話ご馳走様です。
「このルールに限らず、麻雀において気を抜いて良い局面など一つも無い。
ダブル役満直撃で変わらない点差があろうとも
そこで適当に打ってしまえば、次の勝利は遠ざかる。
誰が見ていなくても、たった1打の緩手は自分に刻まれて
どこかで必ずその芽を出すのだ。」
これは「そういう運命論的なオカルト」ではなく、技を競うという文字通りの意味での「競技」における必然だと思ってます。

No title

>ぐぅさん
う~ん
もちろん、適当に打つ事によって技術に悪い影響が出る、といった側面はあると思いますし
その辺りはきちんとケアしていかなければならないと思うのですが
私が信じているのは、それとは別の純オカルト的な部分ですね。
仏教の「因果応報」みたいなところ。
プロフィール

巷の打ち手

Author:巷の打ち手
その名の通り、その辺にいる打ち手です。

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