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あの背中に

明け方近くの鳳凰ロビーは閑散としている。

鳳南の方向を見ると2卓ばかりが立っており、固定メンツがptを奪い合っている。
鳳東予約タブに座っているのは、僕ひとりだけだ。
あと少しすれば早朝組が起き出してきて、2ゲームくらいは打てるんじゃないかと思う。






僕の本体は寝落ち寸前だ。

夜の面子による最後のゲーム。
他家のチーによって送り込まれた牌で引いたラス。
それにアツくなったものの卓が割れてしまい、顔を真っ赤にしながらもう2時間近く待機している。

止めておけば良いのに、と思う。
そうやって僕に何回ラスを引かせたのか、覚えていないのだろうか。
無論、使役されるだけの立場としては、主に従う他無いのだが。
天鳳IDの悲しさである。


あまりに退屈なので、特上ロビーを覗いてみる。

さすがにどの卓も2桁ほどしか打っていない。
最近は特南の方が隆盛しているようだ。
東風で生まれ育ったIDとしては、少し寂しい。
ここにいるID達が七段になっても、僕の仲間になる割合は少なそうだ。

左1に腰を下ろす。
もちろん打つ気などサラサラ無いのだが、僕はこうやって卓を眺めるのが好きだ。
どうせ本体はツイッターとスパ4動画にかかりっ切りだ。わかりはしない。

ID達は皆、無表情で淡々と本体の打牌を再現しているが、その挙動を見ればどういう状態で打っているかが見えてくる。

正座して集中している者。
アニメを見ながら横目で打つ者。
負けが込んでわけがわからなくなっている者。
見抜きする者。

十人十色の人間模様。
僕は人間の観戦者と同じ視点を獲得する。
この身の上に不服があるわけでは無いけれど、ちょっとした反抗のつもりなのかもしれない。


ささやかな万能感から脱して、座っているタブを見下ろすと
いつの間にか表示が2:0になっていた。

まずい、万が一にでも卓が立ってしまうと目も当てられない。
慌てて立ち上がろうとすると

「大丈夫、絶対に立たないから。そっちはまだなんだろう?ゆっくりしてけよ」

もう一人の予約者に引き止められた。

細身ですっきりとした立ち姿。
引き締まった体躯はボクサーを思わせる。
柔和な表情だが、細い眼の奥には鋭い光。
古参のみが持つ達観と諦観を漂わせつつ、僕を真っ直ぐに見据えている。

その場から立ち去る気勢が削がれてしまった。
何より、このID(ひと)どこかで・・・

既視感を検証していると、彼は持参したバッグから釣り竿を取り出して、手際良く組み立てている。
こんなところで釣り?ネットスラング的な意味では無くて?
困惑するのも数瞬、すぐに釣り糸を垂らし、僕など意に介していないようにウキを見守っている。
仕方無く隣に座り、動く気配の無いウキに視線を落とす。


「・・・釣れるんですか?ここ」

「さぁ?少なくとも俺は釣れた事は無いね。釣れたという話も聞かない」


まさか天鳳ロビーでこんな会話をするとは思わなかった。


「でも、良いんだよ。本体が釣り好きでね。こうやっているとコンディションが作れるから」

「そうなんですか。打ち手とシンクロするイメージ?」

「意味があるかはわからないんだけどね。まぁ、やれる事はやっておく」

「これからどちらで打たれるんですか?僕は鳳東待ちなんですけど」

「いや?天鳳では打たないよ。本体も俺がここでこうしている事は知らない」

「えっ、それってやばいんじゃ・・・」


息を抜くように軽く苦笑して


「それはお互いさまだろう」


と、こちらを見ながら片目を瞑られた。
私の頬が緩む。


「そっちは随分と調子が悪そうじゃないか」

「やっぱりわかりますか」


ちょっとした不調をきっかけに体勢を崩した僕の主人は、キレ打ちを続ける事でその損失を拡大し続けている。
湯水のように溶け続けるptとR。チャオるのも時間の問題だろう。
同情がありありと浮かぶ同卓IDの瞳が何より辛かった。


「そりゃな。こんな時間にこんな場所でたそがれてるヤツが調子良いわけ無いだろう」


そう、ここにいるのだって、近々訪れるかも知れない場所を、間近で確認したかったのかもしれない。
落ちていくIDは何人も見てきた。その経験から判断するに、僕のチャオは半ば確定事項だ。


「まぁ、仕方ない。俺達は操り人形だ。責任も無いし、どんな主人だって打つしか無い」

「そうなんですけど・・・」


本体にとっての僕は、単なる半角小文字の羅列かもしれない。
でも僕にとっては、何千戦も過ごした相棒だ。
昇段して共に喜び、ラスを引いて共に絶望してきた大切な仲間だ。
捨て鉢になってボロボロされていくのは、悲しい。


「・・・ってのは建前だ。その顔じゃ俺が言うまでも無いんだろうけど」


いつの間にか俯いていた顔を上げる。
面白がっているような口調とは裏腹に、彼の表情は厳格だった。


「義務とか責任とか主従関係とか。そんなものに価値は無い。下手すると、家族や恋人よりも一緒に過ごしてきたんだ。そんな相手を理屈で突き放すなんて、間違っている。いま君が抱えている痛みは正しいよ」


”所詮IDだから”とどこか卑屈になっていた部分に、刺さる。
それは決して不快な感覚では無い。


「一緒に苦しんで、一緒に悩んで、一緒に喜んでやれ。何もできなかったとしても、一緒にいてやれ。この世界は敵ばかりだけど、味方がいるって気付かせてやれ。そうやってまた歩いていけ。俺達は無力じゃ無い。まず自分の可能性を信じろ。それがお前らを救うから」


必死にID名を捻り出して、共に打ち始めた時の希望と闘志に満ちた表情。
終わらない連ラスに荒れて、憎しみと絶望に歪んだ表情。

僕が思い出させる。
僕が守る。
僕しかできない。


「はい」


返事を聞いた彼の表情が、限りなく優しい形に解れていく。
最初に顔を合わせた時の既視感が再び浮かぶ。


”あの、あなたとはいつかどこかで・・・?”


そう口を開きかけた瞬間、転送が始まった。
鳳東の面子が揃ったのだ。

彼は頷くと、ゆっくりと水面の方に体を向き直し
また釣りの動作に戻る。

視界がホワイトアウトする直前、背中越しに手を挙げて私を送り出す。


(あっ!)


気付いた瞬間、僕は卓に座っていた。

開局のカウントダウン音が聞こえる。
こんな時間なのに観戦者の姿が見える。
下家のみみずは、相変わらず踊っている。


なぜ顔を見てわからなかったのだろう。

必死の思いで特上に上がった当初、思いがけず同卓したトッププレイヤー。
熟練の打ち回し、鋭さ極る仕掛け、戦慄の守備。
手も足も出ずに叩きのめされ、誰よりも早く次の対戦に向かう背中。
その背中越しに振られた手が、釣り竿を持つそれに重なる。


悔しくて悔しくて悔しくて。
それと同じだけ憧れて。
同じフィールドに立ちたくて。
もっとちゃんとした勝負がしたくて。


なぜ思い出さなかったのだろう。
なぜ忘れてしまったんだろう。

そうやってずっと打ってきたんじゃないか。


「どうした?呆けた顔して。お前の本体最近やばいらしいから、疲れたか?」


顔見知りの対面が声を掛けてくる。
上家も怪訝そうな顔だ。
みみずは踊っている。


「ちょっと初心を思い出した」

「初心?鳳東で凌ぐためのか?」

「いや、もっとずっと前の」


あの背中に追いつきたかったんだ。



銅鑼が鳴り響く
配牌を取る

頭にはもう、麻雀のことだけ。






Respect

妄想竜騎士のハイジャンプ 「あの背中に」
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No title

みみずさん・・・

No title

>no nameさん

そう、そういうお話なんです・・・
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その名の通り、その辺にいる打ち手です。

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