スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

騒然とした静けさの中で

学生時代は、バイトや仲間内とのセットで、夜外に出歩く事が多かった。





春から秋は自転車やバイクでまったく問題が無いのだが
日本海側の山間にある僕の町は、豪雪地帯と呼ばれているだけあって
冬は水分を多く含んだ大きな雪の結晶が、地上を塗り潰さんばかりの勢いで降り積もる。
車を持てない年齢である僕達は自然、徒歩やバスを使って移動する事になる。

雪の中を長距離歩き続ける作業はとても苦痛だ。
僅かに露出している顔面には、皮膚を破る様な寒さが止め処なく突き刺さり
冷えた足の爪先の熱を、消雪パイプの水が根こそぎ奪っていく。
雪に足を取られたまま歩き続ける事で奪われる体力は、絶対に屋外で回復する事は無い。

でも、僕は雪道を歩く事が嫌いでは無かった。

僅かな外灯の光を反射して、ボンヤリと光る雪景色
寒さに磨かれた清浄な空気が肺に入る感覚
人のいない、白一色の非現実的な世界に佇む愉悦
視界の届かない果てまでを埋め尽くす白い結晶が、静謐に降り積もる風景・・・

そう、ずっと不思議だった。

風の無い夜に雪が降り積もる光景は、なぜあんなに「静か」なんだろうか?
目の前には生き物を思わせる賑やかさで、雪が舞い踊っているのに。
秋の夜の月や春の夜桜は、同じように無音でありながらあんなに雄弁なのに。


そんな事を夢想しながら雪道を歩いた記憶が
僕の冬、ないし雪のイメージを形作っている








彼女を席にご案内すると、新規の客の目が「おや?」といった印象を語っていた。
まぁ、いつもの事だ。
周辺で一番レベルが高く一番客層が劣悪なこの雀荘に、彼女はまったくそぐわない。

小柄なのだが全てが華奢なので、縦に長いシルエットに見せている。
黒髪に透き通るような白い肌。手の甲と顔が同じ色なので、あまり化粧はしていないようだ。
細くて高い声はボリュームが小さくても対局者全員に聞こえる。
その穏やかな表情には、雀荘に入り浸る人間に有り勝ちな崩れた雰囲気は微塵も無かった。

彼女はうちの店の常連だ。
週に3~4回やって来て、かなりの時間同じ席に腰を落ち着かせる。
女性によく有るような感情を発露させた麻雀では無く、淡々と打つようなタイプだ。

他の常連は彼女と同卓になると、あまり良い顔をしない。
常連の殆どは中高年の男性なので、若い女性と打つ事は歓迎しそうなものだけど
この店のレートにおける勝ち負けは「遊び」の範囲で収まらない事も多々有り
彼女は常連の中の勝ち頭なのだ。
つまりそういう事だ。

もちろん、初めて来た時は色々なやっかみを受けていた。
やたらと話し掛けたり講釈を打ったりするのはまだ良いが、セクハラ紛いの事をする輩も多く居た。
僕もメンバーとして注意するのだが、そういうのは抜本的に無くなる事は無いものだ。
彼女はそれらの問い掛けに対して、丁寧に微笑みすら浮かべながら対応していた。

だが、彼女が延々と勝ち続けるに到って、そういった事を言う人間はいなくなっていった。
麻雀打ちというのは単純な生き物で、「自分より格上だ」と思った相手にはあまり無礼な事はしない。

卓上の所作のみでそれを理解させる事が、どれだけ困難な事か僕はよく知っている。
打ち手は多かれ少なかれ必ずナルシズムに支配されているから、その自意識をぶち抜く為には、何か突出したものを視認させる必要があるからだ。
彼女はそれを、その麻雀のみで実現していた。


僕はこの店に勤めて2年になる。一番の古株だ。
他のメンバーはその殆どがアウトオーバーで消えていった。
この店のレートでは、少しハマれば2日で月の給料が消える。
その調子で負け続けた挙句、月末の締めの前後に急に連絡が取れなくなるのが通例だった。

僕が続いているのは、雀力云々よりも
単に運が良かった事と、自己管理の賜物だったと思う。

消えていった他のメンバー達を内心軽蔑していた。自分は同じ所まで堕ちたくないという意地。
殆ど家出同然で東京に出てきた手前、ここでパンクしたら次の伝は何も無かったので、他のメンバーとは危機感が違っていたというのもある。
なにより、何がどうなってもあの陰鬱な故郷には戻りたくなかった。

成績を細かく管理して、反省点は逐一ノートに付ける。
勝って得た金は貯金する。間違っても遊びで散財する事はしない。
本走が多いので、体調は常に万全にしておく。

当然の事だ。
だが、この業界にはその「当然」ができない人間が集まってくる。
だからこそ僕のような中途半端な人間でも、何とか息をする事ができる。

麻雀が好きだったのは、もう随分前の事になった。
勤めて半年もすると、牌を打つ事は、ルーティン以下のクソみたいな作業に成り下がった。

そんな頃、彼女がやってきた。


最初のゲームで同卓した時には、特に何も感じなかった。
「随分と大人しい麻雀だな・・・」と思った程度だ。

だが、来店を重ねるにつれ、戦慄を感じ始めた。
恐るべきアベレージで勝っているのだ。
もちろんラスも引くし、マイナスで帰る事もある。
でも、大勝ちの割合が遥かに多いし、大崩れするのを見た事が無い。

その理由がわからなかった。
何度も同卓していたけど、どうしても強いと思えないのだ。

牌捌きや打牌の強さ自体が実力と関係しない事はわかっている。
でも、今まで僕が出会った打ち手達には、強者独特のオーラのような物が必ずあったものだ。
デジタル全盛の現代でこんな事を主張したら一笑に付されるだろうけど、確かにあるのだ。
対峙した時のプレッシャーや雰囲気による実力の目利きは、あまり間違った事が無い自信がある。

だが、彼女にはそれが全く無い。
それどころか、消え入りそうな儚さすら感じる。

雀風が大人しいという訳では無い。
むしろ、一色手や高打点のリーチを多用する「豪快」と表現しても良いような打ち筋だ。
なのに、卓で向き合った時には、その片鱗すら感じない。
実際に対戦して大敗してすら、どういう風に負けたのか思い出せないような・・・
そんな希薄さを纏った打ち手だった。

僕は立ち番の時に、さり気なく彼女の後ろ見をするようになった。


こんな事があった。

西家の6巡目に、彼女がこんな形。

一萬一萬一萬三萬三萬四萬五萬五萬七萬七萬九萬四索五索赤  ツモ八萬  ドラ六萬


捨て牌は八筒九筒と字牌のみ。
祝儀が高いルールだ。七萬を打って速そうなイーシャンテンに受けても良いし
愚形だが清一でも一応イーシャンテンだ。

彼女は四索を打った。どうやら清一に行くみたいだ。
次順に、場1の南をツモった。
殆ど安全牌だし、重ねれば一応混一の聴牌だ。危険になりそうな五索赤を打つのが手筋だろう。
だが、彼女はツモ切った。

(なぜだ?河を気にしてるんだろうか・・・)

釈然としないまま巡目が進み、10巡目に親のリーチ。
彼女は同じ形のままだ。

そこにツモ四萬

一萬一萬一萬三萬三萬四萬五萬五萬七萬七萬八萬九萬五索赤  ツモ四萬  ドラ六萬

ペン七萬の聴牌。
七萬五索赤は両方とも危険牌だ。だったらドラも含めた変化も見ながら五索赤を打つのが手筋だろう。
4sも打ってしまったし、十分勝負手だ。

だが彼女は一萬を打った。
確かに親の二萬が早くて通りそうと言えば通りそうだが・・・

(なんと中途半端な・・・ 索子の引き戻しやチートイを見たのか?)

疑問に思いつつ眺めていると、次に筒子をツモってオリてしまった。
なんだろう?この手順は。これで勝てるのか??

そのゲームで卓が割れて他の客も引いてしまったので
何となく彼女に訊ねてみた。

「さっきの萬子の時ですけど・・・」
「あぁ、ご覧になってたんですか。気弱で恥ずかしいわ」

「あれは、六萬八萬九萬あたりを引いたら勝負する感じなんですか?」
「どうですかね。その時になってみないと」

別にはぐらかしている訳では無いようで、「本当にわからない」といった感じだった。

「って言うか、赤は先切りしないんですか?もう染めですよね、あれ」
「う~ん、それだと目立っちゃうんですよね。だから止めておきました」
「それは迷彩という意味ですか?」
「そういうわけでは無いんですけど・・・」

微妙に話が噛み合わない。
どうやら、僕とは違う基準で場を見ているようだ。
「和了りにくくなるから」だとか「警戒されるから」という意味ではなさそうだった。
「じゃあなんなんだ?」と問われると、答えられないんだが・・・

「リーチに何か通ったら、それを切ってたと思います。先手が取れなかったらあの手は終わりだと思ってましたし、後手回ったらどうしても目に付いてしまうし・・・」

ここまで聞いて、ふと気付いた事がある。

彼女は勝ち組なので、大量の紙幣を持ち帰ることが多かったが
サイドテーブルのカゴを使わずに、毎ゲーム財布を取り出していた。
それに、逆両をした事も無い。
また、脇がパンクして卓を割ったら、そのまま自分も帰ってしまう事が多かった。
まるで、自分の所作から逃れるように。

わかった
彼女はさっき自分で言っていたように、「目立つ事」をひたすらに嫌っているのだ。
麻雀的な戦略やゴロ的な立ち回りの考え方では無く
ただ何となく、本能的に。

(なるほど、こういう打ち手もいるんだな・・・)

自分の中だけの諒解を得て、僕は彼女の帰宅を見送った。


それからも、僕は彼女の後ろ見をしたし
彼女の意向を遮らないように、卓廻し等でそれと無く気を遣うようになった。
彼女もそれに気付いているようで、少しずつ気を許してくれるようになっていた気がする。僕の自惚れかもしれないけど。

「なぁ、お前あの人の事好きなんだろ?」

店長にそんな事を言われたりしたけど、曖昧に笑ってかわしておいた。
実のところ、自分でもよくわからなかったのだ。

悪く思っていない事は確実だけれど、僕には他人を想える程の余裕は無いはずだし
そういった感情に身を任せる行為に対して、漠然とした不安も感じていた。
そうする事で全てが壊れてしまうような・・・

今思えば、そういう風に考える事自体、彼女に思い入れがあった証なんだと思う。


彼女が珍しく明け方まで打って
始発前のブランクに、卓が割れてしまった。
他の客は車で来ていたり、食事に出たりしてしまっていたので
店内は彼女以外はノーゲス状態になった。
待ち席の飴玉と常連用の煙草のストックが切れたので、夜番の相方には近所のコンビニに走って貰った。

始発までの時間を潰す間、彼女は卓に座ったまま窓の外を眺めていたのだが
不意に立ち上がって、窓際まで歩いていった。
つられてそっちの方を見ると、外では小さな塊がチラついている。
僕は卓掃の手を止め、彼女の隣に立った。

「雪、ですねぇ。珍しい」
「ええ」

そういえば、今夜は大雪の予報だった。
だから客が少なかったのか。
浮世離れしてしまっている自分に、内心嘆息する。

「都心でこんなに降るのは何年ぶりでしょうかね」
「さぁ・・・ でも、明るいから光を反射して綺麗ですね」

他愛も無い会話をしながら、ただ雪を眺めた。
店の中でこんなに時間がゆっくり流れてたのは、はじめてだった。

しばらくそうしていて、雪の記憶を探りそうになってきた時
彼女の声がそこに割り込んできた。

「わたし、今度引っ越すんですよ」
「・・・そうですか。どちらに?」
「ずっと西の方です。ここにも来れなくなります」

それがどういう事を意味するのか整理するよりも速く
彼女が真っ直ぐにこっちに向き直った。
正面から見ると意外に大きな瞳が、僕の全体を視るように広がっている。


(何を言うべきなんだろう・・・)
(引き止める?)
(バカな、俺はただのメンバーだぞ?何の権利がある)
(大体、ロクに話した事すら無いじゃないか)
(でも、これが最後かもしれない。何か言うべきじゃないのか?)
(・・・違う。俺は俺の何も無い暮らしの意味を、彼女に求めているだけだ)
(逃避だ。転嫁だ。依存だ。いなくなっていった他のヤツと一緒だ)


考えたのは自分自身の事ばかりだ。
「彼女がどうして欲しいのか」なんてまったく斟酌できなかった。
その事に気付いたのすら、ずっと後になってからだった。

結局僕は何も言えなかった。
視線を外した彼女が寂しげに見えたのは、僕の気のせいだと思う。

相方が入り口のベルを鳴らして帰って来るのと前後して
彼女はコートを着て、身支度を整えていた。


それが最後だった







「あの人最近来ませんねぇ」

後輩が床掃除をしながら声を掛けてくる。
そうだな、と適当に相槌を打ちながら、椅子の間を縫ってモップがけをする。

僕はまだこの店にいる。
たぶん、パンクしない限りずっとこうなんだろう。
他に行きたい場所もなりたい自分も無い。
本当に僕はどうしょうも無い。

「誰も気付かなかったかもしれないけど、あの人超強かったですよねぇ。一緒に打ちたく無いです。でも、全然そういう風には見えないんだよなぁ」

大きな声で続ける後輩の弁を聞きながら、苦笑する。
なんだ、僕だけの印象じゃ無いんだ。皆同じような事を考えてる。
(本当に自惚れてたんだなぁ)
という無味乾燥な苦味を、手を動かす事で払拭する。

「あれー?何の話してるんですか?」

看板を出しに行っていた新入りが口を挟んでくる。

「お前が来る前に、めっちゃ強い女の常連がいたんだよ」
「へぇ~、おばちゃんですか?」
「いやそれが若くてさ。結構可愛かった」
「そんな生き物が雀荘に存在するんですか!!」

後輩と新入りの掛け合いを無視しつつ、淡々と作業をする。

「どんな感じの人だったんですか?」

新入りが僕に向かって聞いてきた。

彼女の事を思い出す。
瞬間、瞼の裏が白い景色で埋め尽くされた。


あぁ、そうか。


雪降る景色が静かなのは
中空を縦横無尽に舞う雪の賑やかさと、音の無さのギャップ。
それに、無機質でありながら冷たくは無い、雪の表情の静かさなんだ。

卓上で全てを掌握しながら、目立たぬ事を望み
言葉を発さずに、瞳だけで語りかけてきた彼女のように。

僕はただそれに応じる事ができなかっただけで
雪も彼女も、いつも僕に何かを伝えていたんだ。

遅い。

本当にいつも後になってからしか
僕は大事な事がわからない。


目を開けると、新入りが怪訝そうに僕を見上げていた。

「どうしたんスか?大丈夫ですか?」
「あぁ、ごめん。なんだっけ?」
「えっと、常連の滅法強い女雀士の印象ですよ」

目の裏から消えそうになっている白い結晶を
気持ちだけで追いながら
そのままを口に出した


「雪みたいな人だったよ」














言うまでもありませんが
この文章の内容は、何もかもでっち上げです。
大体一人称が「僕」の時は、嘘文章ですw

雪が降ったので、それに関する文章を起こしてみました。
去年もそうでしたが、雪を見ると何となくセンチメンタルになっちゃうんですよねぇ
無理矢理麻雀を絡ませたら、収拾が付かなくなりました(´・ェ・`)


私は雪国出身なので「雪は煩わしいもの」という認識が定着していましたが
故郷を離れた影響からか、最近は違う見方をするようになりました。
とりあえず、雪をあまり見た事が無い人や、雪に憧れる人に対して

「マジ雪は最悪だよ・・・ 雪かきは重労働だし路面は濡れるし汚いし。雪のせいでガンガン人とか死んじゃうんだぜ?」

みたいなボディーブローは打たないように気を遣ってます。(ってーか、当然なのか?)

せっかく東京にも降ったので
「雪が降ったから」というインセンティブも良いじゃない!
という事で。

皆さん事故ったりコケないようにお気をつけ下さい(*´ω`*)


※これは東京に雪が降った日に、ドボン天国に書いた日記の転載です。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

こんばんは^^
私がコメするのもなんですが、
なんか綺麗な話だなあーと思いました^^
情景も目に浮かんでなんだかきゅんとしてしまいました(*´ω`*)

No title

>かのんさん
こんな無駄に長いのを読んで頂き、ありがとうございますです。
情景は綺麗なんですが
何もそれに麻雀を絡ませなくても良いような気がしていますw
プロフィール

巷の打ち手

Author:巷の打ち手
その名の通り、その辺にいる打ち手です。

最新記事
最新コメント
リンク
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。